Go Forward

「未来への『よい準備』を始めよう!」

学長 大六野 耕作



新型コロナウイルス感染症のパンデミックがもたらした「生きにくさ」を強靭な精神力で克服し、本日卒業・修了を迎えられた皆さんに対し、深甚なる敬意を表すると共に心からお祝い申し上げます。ご卒業、おめでとう。また、これまで、卒業生を陰に日向に支えてこられたご家族の皆さまにも、心よりお慶び申し上げます。今日の佳き日を心待ちにしておられたご家族の皆さまを、桜咲き乱れる春爛漫の日本武道館にお招きできなかったことは誠に残念ではございますが、何卒ご理解のほどお願い申し上げる次第です。

この2年間、新型コロナウイルス感染症が拡大と収束を繰り返す度に、つかの間の安心、拭いきれない不安や恐れ、事態を打開できない社会への落胆を繰り返し、パンデミック下の漠然とした「閉塞感」の中で、孤立感に苛まれた日々もあったのではないかと思います。そしてこの災禍は、一方で、われわれ人類が作り上げてきた近代文明の抱える脆弱性を白日の下に晒すことになりました。大量の化石燃料の消費に支えられた経済活動は、皮肉なことに、人間の生存そのものを脅かす気象変動や環境破壊を生み出し、経済活動を効率化し人間の生活を豊かにするはずであった科学技術が、かえって個々人の格差や分断を生み出す場合があることを、われわれは改めて思い知らされました。そしてまた、ロシアによるウクライナ侵攻は、米ソ冷戦終結後に一気に勢いを得た自由とデモクラシーへの奔流が、必ずしも人間の自由、平等の実現、さらには、平和な世界秩序の創造にはつながらなかったこと、地域によっては、人権を無視した「強権的な専制主義」や「大衆迎合的なポピュリズム」を生み出しつつあることを象徴するものともなりました。

しかしながら、卒業という新しい門出は、明るい未来を皆さんご自身が創り始めるスタート地点でもあると私は確信しています。2020年に学長に就任する前、あわせて13年間にわたって体育会ラグビー部長を務めておりました。ご存じの通り、明大ラグビー部は1997年の大学選手権優勝を最後に2019年の王者復帰まで、22年間の長い低迷期にありました。この長い低迷のトンネルを抜け、常に優勝を争うチームに変身し、再び日本代表に多くの選手を送り出すようになった背景には、極めてシンプルで覚悟さえあれば誰もが実行できる小さな努力の積み重ねがありました。それは、勝てない理由を突き詰めて共通の理解とし、その解決への実行可能な方策をチーム・個人のそれぞれが考え、妥協せずに実施し続けるということです。さらに、部長としてこのチーム・個人の努力をサポートする体制づくりを行い、これら一連のアクションを「よい準備」と位置付けました。

本日、幾多の困難を乗り越え卒業・修了を迎えられた皆さんには、在学中に培った知識・知恵・技術、そしてその精神力を総動員して、先に申し上げた今世界が直面している問題に正面から立ち向かい、「人間が人間として生きるに値する豊かな社会(世界)」を創造するために「よい準備」を始めていただきたいと思います。時流に流されることなく、現在起こっている事態を冷静に分析し、世界のあるべき姿を描き、その実現を図る方策を生み出して欲しいと願っています。その能力は既に皆さんの中に備わっているのですから。

結びにあたり、アメリカの思想家であるラルフ・ウォルド・エマーソンの、次の言葉を皆さんに贈りたいと思います。

It is easy in the world to live after the world’s opinion; it is easy in solitude to live after our own; but the great man is he who in the midst of the crowd keeps with perfect sweetness the independence of solitude.

(世間で言われていることに合わせて生きるのは簡単だ。自分の考え方に従って独りだけで生きるのも難しくない。しかし偉大な人間は、群集の中にあって他者への思いやりを失わず、自らの精神の独立を保持しつづけるのだ。)

卒業生、修了生の皆さん、あらゆる困難を乗り越えながら「力強く 前へ!」
【卒業式次第より転載】