Go Forward

「次の時代を構想し、それを実現する知恵を身につけよう!」

学長 大六野 耕作

本日、ここ日本武道館で大学生活の第一歩を踏み出される新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。また、これまで新入生の皆さんを陰に日向に支えてこられたご家族の皆さまにも、心よりお慶び申し上げます。新型コロナウイルス感染症防止策の一環として入場定員を制限していますことから、この日を心待ちにしてこられたご家族の皆さまを春爛漫の武道館にお招きできなかったことを誠に残念に思っております。どうぞご理解を賜りたく存じます。

人間にはその意志さえあれば、周りの状況を自らの意志で変えていくことも決して不可能ではありません。しかし、100年に一度といわれる新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、先の見通せない「生きにくさ」を社会を構成する全ての人々にもたらし、その結果、筆舌に尽くし難い「閉塞感」が社会を覆っているように思えます。いま、新入生の皆さんにはどのような思いが去来しているでしょうか? 2020年の4月、政府による緊急事態宣言が発せられて以降、新入生の皆さんの生活も激変したのではないかと思います。修学旅行をはじめとする高校の学校行事も中止もしくは縮小され、感染力の高いオミクロン株の流行に最大限の注意を払いながら、大学入学共通テストや各大学の個別試験に対応しなければならなかったのではないかと思います。また、本学に入学を許されながら日本政府による入国制限のために、共に入学を祝えない多くの留学生の皆さんもおられます。こうした困難にもかかわらず、本学への入学を果たされた全ての新入生の皆さんのご努力に、学長として心から敬意を表したいと思います。

しかし、その発生から2年以上が経過しても未だ終息を見ない新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、単にわれわれの日常を一変させただけでなく、われわれが享受してきた近代文明そのもののあり方や、その中での人間活動のあり方を問い直し、新たな文明のモデルを創造するという重大な課題を浮かび上がらせることになりました。先の見通せない予測不可能な現代社会は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)が複雑に絡み合う「VUCA(ブーカ)の時代」と呼ばれますが、現代社会はまさに、さまざまな要素があざなえる縄のごとく複雑に絡み合い、問題の解決や将来への見通しをより一層難しいものにしています。そうした状況の中で、人々は焦燥感や閉塞感を募らせ、時に意見を異にする人を許容できなくなることはよく知られています。こうして生み出される社会・世界の分断は、ただでさえ困難な問題の解決をさらに困難にする危険性を秘めています。本年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの一方的な軍事侵攻とそれに伴って生じている深刻な人道危機問題は、単にウクライナとロシアの問題ではなく、全ての国が解決しなければならない近代文明に根ざした普遍的問題であることを示しています。

いま、大学はこうした人間の生存と尊厳を脅かす問題に向き合い、これを解決する技術・システム・思想・知恵を生み出すという重大な役割を担っています。「権利自由」「独立自治」を建学の理念とする本学は「人間が人間として生きるに値する平和な社会(世界)」の創出を目指す研究・教育の拠点でなければなりません。新入生の皆さんには、常識にとらわれることなく、近代文明のあり方を批判的に振り返り、現代社会(世界)を脅かす問題を見据え、平和で豊かな時代を切り開く知恵を生み出していただきたいと思います。明治大学は、皆さんのそうした努力を強力に支えて参ります。
【入学式次第より転載】