Go Forward

「ニューノーマル時代の担い手となる皆さんへ」

理事長 柳谷 孝

祝辞に入ります前に、新型コロナウイルス感染拡大により多大な苦難に遭われた皆さまに衷心よりお見舞いを申し上げますとともに、その渦中で私たちの命を守り、生活を懸命に支えておられる方々に深く感謝を申し上げます。依然としてこの惨禍が続いておりますが、学生の皆さんがいきいきとキャンパスライフを送れる日が1日も早く到来しますことを、心より願っております。

改めまして、新入生の皆さん、このたびはご入学、誠におめでとうございます。コロナ禍という予期せぬ困難により学修環境や生活環境が一変し、不安や戸惑いがある中でも研鑽に励まれ、新たな学びの扉を開いた皆さんを心より歓迎いたします。

また、オンラインを通じてご覧いただいておりますご家族の皆さま方に対しましても、衷心よりお喜びを申し上げます。

さて、明治大学は、1881年に志高き20代後半の3人の若者により創立されました。当時の日本は、封建社会であった江戸時代が終焉し、社会構造が大きく変化した激動の時代でもありました。西欧諸国をモデルにした日本の近代化が急務である中、フランス法を学んだ岸本辰雄先生、宮城浩蔵先生、矢代操先生が、近代化に不可欠である法学を日本に普及させ、新しい世を作らんと学校を設立しました。それが明治法律学校であり、現在の明治大学であります。本学は、昨年で創立140周年を迎え、これまで約59万人の卒業生を輩出しましたが、開校当時の熱き思いは「権利自由」「独立自治」の建学の精神として、現在まで脈々と受け継がれています。明治大学の校歌には、そうした建学の精神や気風が溢れていますので、皆さんもぜひ覚えてください。

ところで、皆さんは「パーパス」という言葉をご存知でしょうか。パーパスは、目的や意図と訳される英単語ですが、近年は企業経営において「社会的な存在意義」を表す言葉として注目が集まっています。例えば、皆さんもよくご存知のソニーは、2019年に自社のパーパスを「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」と定めました。3年後、ソニーグループは年間の純利益が初めて1兆円を超えましたが、吉田憲一郎会長兼社長は3年間を振り返り、業績ではなく、「パーパスを企業文化として定着させたことが最も重要な成果」と語りました。売り上げや利益といった経済的な目的だけを追い求めるのではなく、なぜその事業を行うのか、社会にどのような価値をもたらすことができるのかという、まさに「志」を問い直すことが、今求められているのです。

翻って、私たちは今、後の歴史に問われるであろう大きな転換期に差し掛かっています。現下の世界情勢に目を向けますと、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、東西冷戦以降の国際秩序を根底から揺るがし、アジアにおいても北朝鮮問題はもちろんのこと、ミャンマーやアフガニスタンにおける紛争、さらには台頭する中国の動向も含めて、世界の先行きに不透明感と緊張感が増しています。また、コロナ禍は我々の価値観や行動様式に大きな影響を与え、持続可能な世界を目指すための国際的な目標である「SDGs」や、IT技術により生活やビジネスをより良く変革させる「DX・デジタルトランスフォーメーション」などに対する取り組みが一層加速しています。さらにはメタバースと呼ばれる仮想空間を事業に適応させる「MX・メタバーストランスフォーメーション」への関心が高まるなど、今後社会はさらに劇的に変化を続けていくことでしょう。

そのような誰も経験したことのないニューノーマル時代において、パーパスは企業だけではなく個人にとっても不可欠なものとなっています。もちろん、今この場で「あなたのパーパスはなんですか」という問いに自信を持って答えられる方は多くはないでしょう。これから始まる学生生活において、勉学に励むことはもちろんのこと、さまざまな価値観や文化的背景を持つ人たちとの交流を深め切磋琢磨をしてください。その過程において、自己と向き合い、主体性を持って自ら考える材料を発見し、「社会にどのような価値を提供したいか」ということを考え続けてほしいのです。本学が理念として掲げる「『個』を強くする」という真髄も、まさにその点にありましょう。そして、予測困難な未来を切り開いていく上での羅針盤となるであろう、皆さんそれぞれのパーパスを見出されることを、大いに期待しております。

結びに当たり、ドイツの偉大な文豪であるゲーテの言葉を皆さんに送ります。
This, that even one shakes at the time when oneself is disturbed keeps increasing a trouble. Only the person who protects and doesn’t give his will completes the world and goes.

この動揺する時代に自分までぐらつくのは災いを増すばかりだ。おのれの志を守ってゆずらぬ者だけが世の中を作り上げていくのだ。

改めまして、ここに皆さんのご入学を心よりお祝い申し上げますとともに、明治大学における学生生活が実り多いものとなりますことを祈念いたし、祝辞といたします。
【入学式次第より転載】