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「権利自由、独立自治の現在」

法学部長 上野 正雄

今年度こそ明るいキャンパスが戻って来るだろうとの期待とともに迎えるはずだったコロナ禍での3度目の春は、あろうことか、ゲルニカを見るような殺戮と破壊の侵略戦争とともにやって来た。今が21世紀であることを再確認させるこの凶行を権利自由、独立自治を建学の精神とする本学の広報紙が書きとどめないわけにはいかない。

情報化社会を反映して、我々の下にも虚実取り混ぜて大量の情報が到達する。しかし、どのように言い立てたとしても、これは、自衛権の行使とは言えない。侵略戦争である。さらに、一般市民への残虐な行為が大量に行われている。戦争犯罪である。つまり、悪である。議論の余地なく、悪である。それがこの地上で今まさに行われている。

では、我々はどうすべきか。憲法は、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」(前文2項)と言う。しかし、現状は、国連でさえ、憲章が規定する領土保全や政治的独立(2条4号)がいとも簡単に破られたのに停戦させることもできない。これを見て、憲法が措定したような国際社会など存在しないのだとしてしまうことは簡単である。しかし、我々は、全力をあげてこれを達成すると誓ったのである(前文4項)。それが存在しなければそれを実現させ、かつ、そこで名誉ある地位を占めるための努力をしなければならない。

では、明治大学はどう努力すべきなのか。もとより、直ちに侵略を止めさせるような力はない。しかし、明治大学は多くの国から多くの若者が集っている教育機関である。前記の努力をすることができる人材を育成することによって将来の国際社会に影響を与えることができるのである。終わりへの道筋さえ見えない侵略戦争の現実を前にして、迂遠に過ぎるかも知れないが、これこそが教育機関の存在価値だと改めて矜持を持って自覚すべきである。

現在、明治大学では、避難者の受講や入学を、また、ウクライナ人奏者による民族楽器のチャリティーコンサートの開催を具体的に検討している。これらは、それに接する周囲の学生へも大きな影響を与えるであろう。学生一人ひとりがこの事態を身近なものとして捉え、権利自由も独立自治も決して所与のものではなく、ましてや過去のスローガンでもなく、今なお個々人の「不断の努力」(憲法12条)によって保持すべき、実現すべき課題そのものであることを理解するよう、努力したい。それによって、それぞれの持ち場において、このような事態の発生を許さない国際社会の実現に寄与できる人材が巣立ってくれるはずである。
(法学部教授)