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本棚 「剣道の文化誌」— 剣術・撃剣・剣道、その文化としての成り立ち — 長尾 進 著(ベースボールマガジン社、税込2640円)



日本において、剣道は武道のなかでも競技人口が最も多く、一説には柔道の約10倍といわれる。しかしながら、剣道は柔道のようにオリンピック種目に入ろうとはしない。本書を読み進めると、この理由がよく理解できる。剣道は単なる“競技”ではなく、長い歴史の中で武士の精神や生活態度を学ぶ修養の場として生い育った“文化”なのだと。全24章から構成され、前後の章は通史的関係性を保ちつつも、各章毎のテーマが明確なため、関心のある章から読み進めてもよい。

著者は全日本剣道連盟の最高段位8段の所持者である。剣道の段位は強さだけでなく、精神の清廉さや稽古の目的や剣道の意義について学ぶ姿勢も必要と聞くが、まさに本書はそれにふさわしく、剣道文化史についての長年の探求の集大成であり、向後の剣道史・武道史研究の基本書となるだろう。剣道文化の理解は、日本文化の理解にも繋がる。そのため、剣道や体育・スポーツ関係者だけでなく、日本文化に関心のある方にもお薦めの一冊である。

後藤光将・政治経済学部教授(著者は国際日本学部教授)