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本棚 「世界俳句2022」 夏石 番矢 編著(吟遊社、税込1650円)



俳句が海外でも読まれている、外国語で一句詠む人もいるらしい。そういった話を耳にしたことはあっても、その実例に触れたことのある人は少ないのではないか。「43か国36言語164人489俳句」を収めた本書は、その名の通り「世界俳句」に親しむことのできる手軽にして圧巻の書である。

全ての句が日本語で読めるが、原語とその英訳も載っている。多言語であるのはもちろん多文字であるのが素晴らしい。キリル文字で書かれたロシア語、ブルガリア語、ベラルーシ語にモンゴル語。バングラデシュのベンガル文字やアラビア文字で記されたクルド語。可愛らしいタイ文字もあれば、見慣れたローマ字のベトナム語や漢字の中国語も並んでいる。「ほんとうに外国語で俳句が作れるのか」という疑問も、この圧倒的な実作の前では霞んでしまう。ともかくこれほどの短詩が俳句として書かれ、読まれているのだ。目眩がするような多様性の中で「ワクチン接種会場/副反応を待ち/十分間が数年間」(ハンガリー)といった世界共通の経験も目を惹くだろう。
鵜戸 聡・国際日本学部准教授(著者は法学部教授)