Go Forward

第625回 ズームアップ

「大ケガ乗り越え勝利を呼び込む」弓道部 伊山 優樹

文・写真/西田 舞衣子(法2)



静まり返った射場に1人残って弓を引く。自分の弦音と矢が的に当たる音が響く。団体戦で落を務める者の特権だ。今年度の全日本学生選手権(以下、インカレ)の男子団体でベスト8に終わってしまった明大だったが、内容は決して悪くないどころか、3試合全てで的中率9割という高水準を維持。その団体戦で最後に射る重要な役割が〝落〟である。

その落を務めたのが伊山。6月の全関東学生選手権でも落で弓を引き、優勝に貢献した。己の射型を追い求め続ける弓道家が多い中でも、人一倍試行錯誤を重ねてきた男だ。今でこそ美しい射型から高い的中率を生みだしているものの、昨年度の出場はシーズン終盤にあるリーグ戦のみ。フォームも現在とは違っていた。

一昨年度、伊山はまさにどん底を経験した。事故で右半身がまひし、現在でも後遺症が残っていると言う。「なんとかそんな体でもうまくやれているのかな」と明るく語ったが、その努力は並大抵のものではない。無理に元の射型に戻そうとするのではなく、ありのままの自分と向き合い工夫に工夫を重ねてたどり着いた。

「自分が一番頑張らないとなと思って」。驚異の復活劇を遂げた伊山の弓道にかける思いは熱い。9月から始まる長丁場のリーグ戦は、インカレで勝てなかった桜美林大など強豪がひしめく。「落の役割は外さないこと、勝負矢を決めること」。覚悟を決めて的を見据える男は、もう過去など無関係であるかのような頼もしい射でチームを引っ張る。
(いやま・ゆうき 政経3 東北学院)