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本棚 「現代貨幣論と金融経済」—現代資本主義における価値・価格および利潤— 飯田 和人 著(日本経済評論社、税込5,500円)



本書はマルクス経済学の理論書であると同時に、その理論を現状分析の中に大胆に生かす野心的試みの書である。具体的には、バブル経済、リーマンショック、アベノミクス、現代貨幣理論(MMT)を巡る議論が理論的に丁寧に腑分けされている。そこでは、マルクスだけでなく、ケインズ、ポスト・ケインズ学派の理論的枠組も参照される。その意味で、金融を巡る現代の諸問題に対する複数の理論的視座からの接近手法を知りうる内容である。また、本書の大きな利点として、研究書である一方で、マルクスを知らぬ読者にも配慮した懇切な概念説明が随所でなされていることを挙げておく。これは「あとがき」にあるとおり、歴史認識または社会認識の科学であるべき経済学の世界に、高校生や大学生を誘わんとする著者の意図によるものである(内田義彦を意識?)。従って、通読には時間が必要とはいえ、入門レベルのマクロ経済学を学んだ学生、現代経済史や金融の経済学説史に関心のある経済系学部卒社会人でも挑戦可能な書となっている。

高橋 聡・政治経済学部専任講師(著者は名誉教授)