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本棚「欧米の隅々」市河晴子紀行文集 高遠 弘美 編(素粒社、税込2420円)



本学名誉教授である高遠弘美先生の編纂で、市河晴子紀行文集が刊行された。市河晴子(1896-1943年)は渋沢栄一の孫にあたる人で、1931年に夫の市河三喜と共に渡欧し、旅の日々を『欧米の隅々』にまとめた。1937年には単身渡米、米国と日本各地への旅の体験を『米国の旅・日本の旅』として出版した。本書は、二冊の著作『欧米の隅々』と『米国の旅・日本の旅』の中から、高遠先生の選による晴子のエッセイを一冊にまとめた、珠玉の紀行文集である。90年近く前に綴られた旅の記録でありながら、晴子の文章からは各地の情景がありありと浮かび上がる。紀行文の中で、晴子はしばしば古典文学や漢文、短歌を引用しており、知らなければ気づかずに読み飛ばしてしまうところであるが、高遠先生のきめ細やかな脚注に導かれて、読者は晴子の描き出す世界の豊かさを、深く味わうことができる。見ず知らずの土地や習俗に、心を開いてずんずん踏み込んでいく勇敢な晴子の足跡は、現代を生きるわたしたちにとって、何よりも大きな励ましとなる。
瀧口 美香 ・商学部准教授(著者は名誉教授)