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本棚「ドイツ誕生」神聖ローマ帝国初代皇帝オットー1世 菊池 良生 著(講談社現代新書、税込1012円)



本書は著者が2003年に同じ講談社現代新書より上梓し、好評で版を重ねた『神聖ローマ帝国』の巻頭に登場するオットー大帝の評伝である。題名が『ドイツ誕生』なのは、中世の欧州にいまだドイツを名乗る国も人々もなかった時代、今のドイツ、オーストリアと地理的に重なる東フランク国の王であったオットー1世が、西暦962年にローマ教皇から皇帝の地位を授けられたことに始まり、1806年まで存続した神聖ローマ帝国こそ、のちのドイツ史の観点から見れば、すなわちドイツ第一帝国であったに他ならないためである。父ハインリヒ1世の時代にさかのぼり、いかにオットーが数多の勢力を下し、地位を固めていったかを詳述する本書の各頁に登場する人物はしばしば10を超える。その複雑かつ錯綜した事実関係を著者が端切れのいい東京弁で料理していく様はまさに名人芸だ。しかも現在の欧州ができあがった過程に、国家の理想像たる古代ローマ帝国を目指すことで、逆に分裂が深化した歴史があったなど常識を覆す知見にも満ちた魅力的な一冊である。
林 ひふみ ・理工学部教授(著者は名誉教授)