Go Forward

デジタル化が拡張する私たちの未来社会

総合数理学部長 荒川 薫

新型コロナウイルスが世界で猛威を振るい、人々に多くの影響を与えた。そのひとつに、情報通信技術の社会への浸透が挙げられる。日本は科学技術立国として知られているが、その一方で、人々の暮らしに最先端の情報通信技術が普及していないということでも有名であった。気が付けば、日本はデジタル化が世界でも遅れた国となっている。しかし、人と接触できないという事態になり、ここで急速にデジタル化が進んだ。

ディスプレー越しに相手の顔を見ながら会話ができるいわゆる「テレビ電話」は、日本では、1970年の大阪万博で出展されたのが最初といわれている。しかし、当時はデータの伝送速度が十分ではなく、実用的なレベルになったのは高速データ通信網が整備された1990年代後半になってからである。その後、携帯電話によるテレビ電話も開発されたが、当時は、一般の人たちにはそれほど活用されなかった。これが現在、人々の生活に普及したのは、データ通信網の高速化、情報端末の小型化・高性能化という技術的側面の向上とともに、人との接触を避けるべきという社会情勢によるものであるといえる。

このオンライン技術であるが、現在は、実空間の内容を別の実空間で視聴できるというものが主流であり、例えば家にいながら大学の教室で行われる授業を受けられるが、その授業はパソコンの20cm×30cm程度の画面内でのみ展開され、その場の雰囲気や周りの学生たちの様子などは伝わらない。しかし、この技術がさらに発展していくと、ヘッドマウントディスプレーなどを装着して、まるでその教室にいる雰囲気で授業を受けることができる。すなわち、教室を仮想空間で実現し、人がその中に入り教室で授業を受ける感じでオンライン授業を受けることが可能となる。さらには、実空間では視聴できないものを新たに付与した拡張空間を体験することができるようになる。たとえば、医療において、臓器の内部の三次元構造がどうなっているかなど、今まで人が頭の中で描いていた情報を手術現場の仮想空間で患者の臓器上に三次元映像として提示することで、医師が効果的に手術を行うことができる。

このように、必要に迫られて進んだデジタル化であるが、今後は現実を拡張することで、今までは実現できなかった高度なサービスを私たちに提供してくれることが期待される。ただ、いまだに、音楽はアナログレコードで聴くのが一番良いという人たちがいるように、流行に流されるのではなく、私たちにとって何がベストかということを常に意識しながらデジタル化は進むべきであろう。
(総合数理学部教授)