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本棚 「食文化からイギリスを知るための55章」 宇野 毅 他 編著(明石書店、税込2200円)



まずもって本書の魅力は、識者ならではの慧眼ならびに学術的検証であろう。社会、文化の知られざる側面に光を投じた点だ。イギリスの食文化、食卓の歴史の解明を切り口とし、いわゆる潜在的文化の真の実像を彷彿とさせている。食文化、食材が統べる者の相剋、地勢的かつ技術的要因に伴い変遷したさま、加えて産業革命を境に変容を余儀なくされた食習慣、また時代の趨勢とともに醸成、包摂された食の多様性などが存分に詳述されている。読者は識者の声に導かれ、イギリス伝統料理の古層の歴史を知る。そしてついには至福のワイン、エールの文化史へと誘われる。もちろん本書は、文学に見る料理への言及も忘れてはいない。まさに情報の宝庫、フルコースだ。前作『田園のイングランド』同様、随所に横溢するイギリス愛も魅力の一つだ。

巷間、容易に口の端に上る「イギリス料理=まずい」の解明に端を発し、実はイギリス文化史の重要な本流、根幹を余すところなく精察しているのが本書である。食通ならずとも必携、必読となろう。
相馬 美明・文学部兼任講師(編著者は経営学部教授)