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本棚 「野生の教養」飼いならされず、学び続ける 岩野 卓司、丸川 哲史 編(法政大学出版局、税込3080円)



本書は、明治大学大学院教養デザイン研究科の教員(元教員)28名による教養入門の書である。思想、文学、芸術、歴史、政治など論は多岐にわたるが、ほぼ全編に通じる課題が「野生」である。野生は本来、家畜のように飼いならされていない粗野な自然状態を指し、文化的洗練を指す教養とは対立する概念である。本書がもくろむのは、この対立概念との掛け合わせによる教養の復権である。

効率や実利が重視される現代社会では、習得に手間と時間がかかる教養は軽視されがちである。本書が野生概念によって追求しようとするのは、こうした支配的な価値観には「飼いならされない」、批判的で創造的な教養の可能性である。そうした可能性は、例えば、ありあわせの事物を用いて目的を果たす狩猟採集民の即興的な知や、20世紀初頭のアナーキストの相互扶助論、狛犬を訪ね歩きつつ情報を「足」で読み取る研究者の技の中に探り当てられている。

初学者ばかりでなく、家畜化した教養人にこそ手に取ってほしい、冒険的で刺激的な入門書である。
佐久間 寛・政治経済学部准教授(編者は法学部教授、政治経済学部教授)