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「Polycrisis(複合危機)時代の担い手となる皆さんへ」

理事長 柳谷 孝

新入生の皆さん、このたびはご入学、誠におめでとうございます。コロナ禍という予期せぬ困難により学修環境や生活環境が一変し、不安や戸惑いがある中でも研鑽に励まれ、新たな学びの扉を開いた皆さんを心より歓迎いたします。また、これまで新入生を支えてこられたご家族の皆さま方に対しましても、衷心よりお慶びを申し上げます。

さて、明治大学は、1881年に志高き20代後半の3人の若者により創立されました。当時の日本は、封建社会であった江戸時代が終焉し、社会構造が大きく変化した激動の時代でありました。西欧諸国をモデルにした日本の近代化が急務である中、フランス法を学んだ岸本辰雄先生、宮城浩蔵先生、矢代操先生が、近代化に不可欠である「法学」を日本に普及させ、新しい世を作らんと学校を設立しました。それが明治法律学校であり、現在の明治大学であります。本学は、一昨年で創立140周年を迎え、これまで約60万人の卒業生を輩出しましたが、開校当時の熱き想いは「権利自由」「独立自治」の建学の精神として、現在まで脈々と受け継がれています。明治大学の「校歌」には、そうした建学の精神や気風が溢れていますので、皆さんも是非覚えて、歌い継いでください。

ところで、私たちは今、後の歴史に問われるであろう大きな転換期に差し掛かっています。現下の世界情勢に目を向けますと、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻はいまだ終結の兆しが見えず、加速する世界の分断は資源や食料の高騰や急激な為替変動など経済にも大きな影響を与え、世の中の先行きに不透明感と緊張感が増しています。こうしたさまざまなグローバルリスクが複合的に連鎖して増幅し、より大きな影響をもたらす現在の状況は「Polycrisis(複合危機)」と呼ばれ、本年1月の世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議において最も重要なキーワードとなりました。

皆さんは、このように混沌の中で目まぐるしく変化を続け、未来予測が困難な「Polycrisis」時代の真っただ中へと向かっていくことになります。これから始まる学生生活において、勉学に励むことはもちろんのこと、世界で起きているさまざまな問題や課題に当事者意識を持ち、今後社会はどうあるべきか、そしてその実現のために自分自身は何をすべきなのか能動的に考えを巡らせてください。近年は企業経営において「社会的な存在意義」を表す「パーパス」という言葉に注目が集まっているように、売上や利益といった経済的な目的だけを追い求めるのではなく、なぜその事業を行うのか、社会にどのような価値をもたらすことができるのかという、まさに「志」を問い直すことが、企業だけではなく個人にとっても不可欠なものとなっているのです。

しかしながら、自己と向き合うことは、ただ一人で思い悩むということではありません。明治大学には、全国そして全世界から、年齢も国籍も異なる多様な学生が集まっています。ほんの少し勇気を出して、是非多くの人達と交流を深め切磋琢磨をしてください。また、留学、ボランティア活動、インターンシップなど、普段とは異なる環境に積極的に身をおくことも重要です。時には自分と異なる考え方や価値観に戸惑いを覚えることもあるかもしれません。しかし、違いがあるからこそ、真摯に向き合い語り合うことで相互理解を深めることができ、自分自身をさらに成長させてくれる、かけがえのない財産となることでしょう。そして、さまざまな価値観や文化的背景を持つ人たちとの時間は、必ずや皆さんの世界を広げてくれるに違いありません。

他者を認め自己と向き合い、主体性をもって自ら「考える材料」を発見し、「社会にどのような価値を提供したいか」ということを考え続けること。これこそ、本学が理念として掲げる「『個』を強くする」ことに他なりません。皆さんの前途は、大きく開かれています。本学において、世界の人々と協働してゆく上で必要な国際通用性と高度な専門性に磨きをかけるとともに、それぞれにふさわしい「個」を磨き、予測困難な未来を切り拓いていく上での羅針盤となるであろう、皆さんそれぞれのパーパスを見出されることを、大いに期待しております。

結びにあたり、インド独立の父として知られるマハトマ・ガンジーの言葉を皆さんに贈ります。

Find purpose, the means will follow.”
(存在理由を見つけなさい。手段はあとからついてくる。)
 改めまして、ここに皆さんのご入学を心よりお祝い申し上げますとともに、明治大学における学生生活が実り多いものとなりますことを祈念いたし、祝辞といたします。
【入学式次第より転載】