Go Forward

組織人としての器量・力量

専門職大学院長 吉村 孝司

3月のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)において日本代表は野球王国のアメリカ代表からの劇的勝利を収め、名実ともに世界一の栄光に輝いた感動はいまだに私たちの心に残っている。特に監督と選手が一体となって激戦を勝ち抜いていくプロフェッショナルたちの姿に多くの学びと気づきを得たファンも少なくはないだろう。

本学専門職大学院は、ガバナンス、ビジネス、会計、法務の4領域におけるプロフェッショナルたる高度専門職業人の育成を目的とする教育機関であるが、時にプロフェッショナルとはいかなる存在を指すかとの問いかけを受けることも少なくない。

法学者の石村善助はプロフェッションたる職業を「学識(科学または高度の知識)に裏づけられ、それ自身一定の基礎理論をもった特殊な技能を、特殊な教育または訓練によって習得し、それに基づいて、不特定多数の市民の中から任意に提示された個々の依頼者の具体的要求に応じて、具体的奉仕活動を行い、よって社会全体の利益のために尽くすもの」として説いている。故にプロフェッショナルとは一定の職業を学識、技能を持って取得し保持し、生かす者を指すのである。

今回のWBCでは監督の采配と個々の選手の貢献が勝因とされ、そこには優れたリーダーシップが発揮されたことが連日報道されたが、より正確を期すならば、キャプテンとしての監督によるキャプテンシーと個々の選手がフィールドの内外で発揮したリーダーシップが功を奏したのである。

リーダーシップという言葉は聞き慣れているが、キャプテンシーという言葉には馴染みが少ない方も多いと思われるが、両者の違いは、リーダーシップがメンバーの誰もが自らの意思の下でメンバーを鼓舞し啓発するために発揮し得るものであり、そのための特段の制約条件はない。しかしキャプテンシーとはまさにキャプテンのみが保有し発揮し得るものであり、いわばキャプテンとしての立場や職位を必要としている。監督は監督であるが故に保有するパワーを発揮し、選手は選手としての立場から自身に何ができ、何をすべきかを正確に自覚し行動することが何よりも肝要なのである。故に今回は監督と選手が互いにプロフェッショナルとして、そして組織人としての器量と力量を具備し、遺憾なく発揮したことが最大の勝因といえ、これこそがこれからの時代を切り開く原動力に他ならない。

われわれ専門職大学院としてもこうした器量と力量に富み、広く社会に貢献できるプロフェッショナル人材の育成に引き続き努めていく所存である。
(会計専門職研究科教授)