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本棚 「西日本の有力卸売企業サンビックの成立と展開」 佐々木 聡 著(ミネルヴァ書房、税込8800円)



本書は、学部時代の湯沢威、大学院時代の由井常彦両碩学の薫陶を得て、著者が研究者として刊行した5冊目の単著研究書である。石鹼・洗剤、美容と衛生産業企業と丸田芳郎に代表される革新的経営者に関する他の経営書も含めると8冊目の単著書となる。先行研究の蓄積のほとんどないこの分野のパイオニアである著者は、2015年の『地域卸売企業ダイカの展開ナショナル・ホールセラへの歴史的所産(ミネルヴァ書房)2019年の『中部地域有力卸売企業・伊藤伊の展開多段階取引から小売直販への移行と全国卸あらたへの道』(同前、本書は商工総合研究所第44回中小企業研究奨励賞準賞受賞)を合わせ三部作(著者は「三姉妹書」としている)を著した。4年毎に1冊ずつ上梓したことも著者の研究への情熱と「流通革命」の分析の第一人者としての責任感のなせるものである。本書は、著者自ら前二作より資料収集や体系化という点で大きな苦労を伴ったとしているが、この三部作でダイカ、伊藤伊、サンピックとそれぞれ日本をほぼ三等分する全国卸を対象化したことになる。故林周二の「卸業・問屋斜陽論」の精確、正確な理解の上で、卸業者(故大公一郎他)の革新的性格や社会的存在意義そして卸売企業の「社会的進化」の特徴と要諦を実証した本書は、他の姉妹書と共に日本の流通経営史研究に大きくその名をとどめる力作である。

藤江 昌嗣・経営学部教授(著者は経営学部教授)