Go Forward

本棚「新派映画の系譜学」—クロスメディアとしての〈新派〉スザンネ・シェアマン、神山 彰ほか 共著(森話社、税込5280円)



新派という演劇ジャンルは、今日、位置付けとしては評価が難しく、そのアクチュアリティを疑問視する声すらある。だが、ここに、映画という参照軸を立ててみると見え方が変わる。本書が明らかにするのはそのダイナミズムだ。メロドラマ、連鎖劇、新聞小説等々、分析の切り口は多岐にわたり、まさに新派の“偏在”ぶりとその魅力が分かる。ユーモア作家として人気を博した中野實原作の諸作品が、そののんきさ・悩みのなさ故、「広範な観客の記憶」に沈殿していく力を発揮した様を神山論文は分析する。その力は長らく演劇史的に見逃されてきた盲点だった。シェアマン論文は、『不如帰』(徳富蘆花)の舞台化・映画化も含めての受容の分析において、この原作の持つ“異議申し立て”の射程の鋭さを指摘する。だが、この作品の急速なアクチュアリティの喪失が、現存するわずか2本の映画化作品から確認できる皮肉も同時に浮上する。他にも魅力的な論考が連なるが、間違いなくここに、演劇と映画の、非常にユニークな“相互依存性”が見て取れる。

井上 優・文学部教授(著者は法学部教授、名誉教授)