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「贈与をめぐる冒険」—新しい社会をつくるには— 岩野 卓司 著(ヘウレーカ、税込2090円)



私たちは誰かから物をもらい、誰かに物をあげる。もらったら、場合によってはお返しをする。何をどう返すのかまでが大事なこともある。贈与という出来事は人間関係を生み、維持し、良くすることでもある。そして、本書で著者が私たちに勧めるのは、私たちが日常的にも関与する贈与という現象から、人と人との関係、人と自然との関係を見直すことである。

著者は、法律、言語、結婚制度、知識についての考察から、私たちが不特定多数の他者から贈与されていることを示す。こうした贈与を、私たちは資本主義的交換よりずっと前から知っているのだ。そして今日、格差や無縁といった状態を考えるときに、資本主義に取り込まれない贈与の視点から始めることを著者は教えてくれる。人を助けたい気持ち、消費で得られない満足感、つながりたい衝動、それらに動かされる贈与には、資本主義社会を内的に変質させる可能性があるのだ。このことを著者はやさしく具体的に説明しているが、その構想はとても魅力的である。

宮本 真也・情報コミュニケーション学部教授(著者は法学部教授)