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本棚「ユダヤ人の自己憎悪」テオドール・レッシング 著、田島 正行 訳(法政大学出版局、税込4400円)



テオドール・レッシングという名前を知っている人は多くはないだろう。彼はクラーゲスの影響を受けて20世紀前半にドイツで活躍したユダヤ系思想家である。だから本書は、クラーゲス研究の泰斗、田島正行を翻訳者に、田島ゼミ出身の赤羽健を編集者に迎え、最良のコンビの下でこの上ない一冊に仕上がっている。

ヨーロッパのキリスト教の土壌で長い間ユダヤ人は迫害されてきた。ドイツに住むユダヤ人は、ドイツ人であることとユダヤ人であることにどう折り合いをつけるかに悩んでいた。そこから、ユダヤ人であることに憎しみを抱き、自己憎悪という屈折した感情が生まれるのだ。レッシングはさらにこの感情を、自己破壊的な衝動に走る人類全体の宿痾として捉えていくとともに、自己と他者を肯定することでこの否定的な感情を克服するように呼びかけている。

イスラエルとパレスチナの間の暴力の応酬をはじめとして、いまだやまない世界各地での戦争についてもう一度考え直してみるためにも、本書を読むことは有意義であると言えよう。
岩野 卓司・法学部教授(訳者は元法学部教授)