ラン藻を用いた世界最高効率でのバイオコハク酸生産に成功

2017年11月09日
明治大学

ラン藻を用いた世界最高効率でのバイオコハク酸生産に成功

要旨

明治大学大学院農学研究科の竹屋壮浩(博士前期課程1年)、小山内崇(専任講師)らのグループは、相関解析という統計手法を用いて、ラン藻によるバイオコハク酸の増産に成功しました。
生物は様々な化合物を生産します。その中でもコハク酸は、バイオプラスチックの原料となることが知られています。現在、コハク酸の多くは、石油から化学的に合成されています。しかし、石油資源の枯渇や温室効果ガスの発生の問題から、環境に優しい生物を用いた生産系が望まれています。特に、光合成を用いた生産系は、二酸化炭素から直接バイオプラスチックを合成することが出来ることから、注目を浴びています。
本研究グループは、光合成を行う細菌であるラン藻が、嫌気・暗条件注1)でコハク酸を生産することを発見しています参1)。これまでに研究グループは、コハク酸を増産する遺伝子改変株を複数取得してきましたが参2)、コハク酸増産に共通するメカニズムは分かっていません。
今回、コハク酸増産株の遺伝子発現量注2)を測定したところ、コハク酸増産株に共通した発現パターンを発見しました。この発現パターンをもたらす原因を特定するため、相関解析注3)を用いて遺伝子発現量を分析したところ、レスポンスレギュレーターRre37注4)がコハク酸増産に寄与することが示唆されました。Rre37を過剰発現させ、さらにRNAポリメラーゼシグマ因子SigE注5)を過剰発現させた遺伝子改変株を作製したところ、1リットルの培養液あたり140 mg/dayのコハク酸の生産に成功しました。この値は、これまでのラン藻を用いたコハク酸生産のなかで最高効率です。
本研究成果は2017年10月24日(英国時間)発行の英国植物学誌「Plant and Cell Physiology」(Oxford journal)に掲載されました。

※研究グループ
明治大学 農学部農芸化学科 
環境バイオテクノロジー研究室
専任講師 小山内 崇(おさない たかし)
博士前期課程1年 竹屋 壮浩(たけや まさひろ)
専門研究員 飯嶋 寛子(いいじま ひろこ)
研究補助員 鋤柄 春奈(すぎがら はるな)

1.背景
現在、プラスチック製品のほとんどが石油から合成されています。しかし、石油資源の枯渇や地球温暖化の問題から、石油を代替するエネルギー資源が求められています。本研究グループは、新たな資源としてラン藻という光合成を行う細菌に着目しています。ラン藻は、光合成を行うことで大気中の二酸化炭素を取り込み、これを原料として様々な化合物を合成しています。ラン藻が合成する化合物の中でもコハク酸や乳酸は、バイオプラスチックの原料となることが知られています。同じように光合成を行う植物と比較して、ラン藻は細菌であるため増殖が速いです。一方で、他の細菌と比較すると、コハク酸や乳酸の生産効率が低くなっています。研究グループは、ラン藻を用いたプラスチック生産系をより効率的にすることを目標に、ラン藻の光合成や代謝の仕組みを研究しています。
本研究グループは、世界中で研究されているシネコシスティス(Synechocystis sp. PCC 6803)注6)を主に研究しています(図1)。これまでの研究により、嫌気・暗条件という「発酵」で知られる条件下でラン藻を培養すると、コハク酸および乳酸を細胞外に放出することが分かっています。コハク酸や乳酸は、バイオプラスチックの原料として知られる有用化合物です。また、様々な遺伝子改変を行うことによって、ラン藻がより多くのコハク酸を生産することを見出しています。個々の遺伝子改変株において、コハク酸が増産したメカニズムの一部は分かっていますが、これらの改変株に共通するメカニズムは分かっていませんでした。
相関解析は、二つの数字の間の関係を数値で示す分析法です。この統計手法を用いることで、「ある遺伝子の発現量が高い時に、コハク酸の生産量が多い」などの傾向を見つけることが出来ます。
本研究は、これまでに取得してきたコハク酸増産株の糖異化注7)関連遺伝子の発現量を測定しました。得られた遺伝子発現量を相関解析に供し、コハク酸生産量と発現量の関係性を考察しました。そして、明らかとなった関係性を基に、より効率的にコハク酸を生産する新たな改変株の作出を目指しました。

2.研究手法と成果
ラン藻シネコシスティスの糖異化関連遺伝子の発現量を測定すると、コハク酸を増産する改変株に共通して、特異的な発現パターンを示すことが判明しました。この発現パターンをもたらす原因を特定するため、遺伝子発現量を相関解析に供したところ、Rre37と呼ばれるレスポンスレギュレーターとRNAポリメラーゼシグマ因子SigEが一因であることが推測されました。また、相関解析によって各遺伝子間の関係性も明らかとなりました(図2)。これらの解析結果を考慮して、Rre37およびSigEを過剰発現させたRre37/SigEという改変株を作出しました。Rre37/SigE改変株の代謝産物量を測定したところ、コハク酸生産量が約2.7倍、乳酸生産量が約2倍に増加することが明らかになりました。
過去に研究グループは、炭酸水素ナトリウムおよびカリウム添加により、乳酸およびコハク酸の生産量が増加することを見出しています参3)。Rre37/SigE改変株に、炭酸水素ナトリウムおよびカリウムを添加したところ、コハク酸と乳酸の生産量が、それぞれ420 mg/L、470 mg/Lに達しました(図3)。一日当たりの生産量に換算すると、コハク酸は140 mg/L/day、乳酸は157 mg/L/dayとなります。140 mg/L/dayという値は、これまでのラン藻を用いたコハク酸生産の中で、最も効率的であることを示します。乳酸の生産効率も世界トップクラスの効率性でした。

3.今後の期待
本研究は、相関解析という新たな手法を用いて、コハク酸や乳酸などのバイオプラスチック原料の生産量を増加させることに成功しました。ラン藻を用いたバイオプラスチック生産は、光合成によって二酸化炭素から直接合成できるという利点があります。一方で、他の細菌を利用したコハク酸の生産系は50 g/L以上の生産量を示しており、ラン藻によるバイオプラスチックの生産系は、実用化レベルに達していません。今回の研究成果は、コハク酸の増産だけでなく、ラン藻の代謝制御の一端を明らかにするものです。このような光合成生物の代謝制御機構の理解を通して、ラン藻によるバイオプラスチックの工業生産の実現が期待されます。

4.論文情報
<タイトル>
Cluster-level relationships of genes involved in carbon metabolism in Synechocystis sp. PCC 6803: Development of a novel succinate-producing strain
(日本語タイトル Synechocystis sp. PCC 6803における炭素代謝に関与する遺伝子のクラスターレベルの関係性: 新規コハク酸生産株の作出)

<著者名>
Masahiro Takeya, Hiroko Iijima, Haruna Sukigara, Takashi Osanai


<雑誌>
Plant and Cell Physiology

<DOI>
doi.org/10.1093/pcp/pcx162

5.補足説明
注1)暗・嫌気条件
酸素濃度が非常に低い培養条件を嫌気と言い、微生物が発酵するのによく用いられる条件です。光合成生物は、光合成で酸素を発生するので、暗条件で発酵させる必要があります。

注2)遺伝子発現量
DNA上にある遺伝子は、その情報が転写されてRNAになり、さらに翻訳されて、タンパク質になります。RNA量を測定することで、ある遺伝子がどれくらい活性化しているかが分かります。

注3)相関解析
2つの事象のあいだの関係性を数値で示す解析法です。数値で表現することにより、関係性を定量的に扱うことができます。

注4)レスポンスレギュレーターRre37
レスポンスレギュレーターは、環境変化などの情報を伝達するタンパク質です。Rre37は、ラン藻に存在するレスポンスレギュレーターの1つです。過去の研究から、窒素欠乏時にタンパク質量が増加し、糖異化を制御する役割を担うことが知られています。

注5)RNAポリメラーゼシグマ因子SigE
RNAポリメラーゼは、遺伝子であるDNAから遺伝子のコピーであるRNAを合成する酵素です。シグマ因子は、RNAポリメラーゼの一部で、DNAと結合し、RNAの合成を開始させます。シネコシスティスは9つのシグマ因子(SigA〜I)を持ち、このうちSigEは、糖異化の促進に働くことが知られています。

注6)シネコシスティス
淡水に生息している単細胞性の球菌で、直径が約1.5~2.5マイクロメートルです。1996年にラン藻の中で、はじめて全ゲノム配列が決定されました。遺伝子改変が容易であることから、モデルラン藻として世界中で広く研究されています。

注7)糖異化
光合成生物は、光合成によって二酸化炭素を吸収して、それを基にグリコーゲンなどの糖を貯蔵します。この貯蔵した糖を分解して、様々な代謝産物を作り出し、細胞の部品やエネルギーにします。このように糖が分解される過程を糖異化と言います。

6.参照
参1)明治大学 2015年 9月24日
https://www.meiji.ac.jp/koho/press/2015/6t5h7p00000jc80a.html

参2)明治大学 2016年 7月20日
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20160720-2/index.html

参3)明治大学 2016年 8月31日
http://www.meiji.ac.jp/koho/press/2016/6t5h7p00000lxcit.html

7.発表者・機関窓口
<発表者> ※研究内容については発表者にお問い合わせ下さい
明治大学
農学部農芸化学科 
環境バイオテクノロジー研究室
専任講師  小山内 崇(おさない たかし)
TEL:044-934-7103 FAX:044-934-7103


<機関窓口> ※取材のご依頼はこちらにお問い合わせ下さい
明治大学 経営企画部 広報課
〒101-8301
東京都千代田区神田駿河台1-1
TEL:03-3296-4330 
E-mail: koho@mics.meiji.ac.jp

図1. シネコシスティスは、世界中で広く研究されているラン藻のひとつ。単細胞で、球形をなしています。図1. シネコシスティスは、世界中で広く研究されているラン藻のひとつ。単細胞で、球形をなしています。

図2. 糖異化関連遺伝子の関係性(論文からの抜粋) / 相関解析という手法を用いて、遺伝子の関係性を予測しました。オレンジ線は発現量が正の相関にある遺伝子、青色点線は発現量が負の相関にある遺伝子を互いに結んでいます。この解析を用いることで、遺伝子の制御機構が視覚的に理解しやすくなります。図2. 糖異化関連遺伝子の関係性(論文からの抜粋) / 相関解析という手法を用いて、遺伝子の関係性を予測しました。オレンジ線は発現量が正の相関にある遺伝子、青色点線は発現量が負の相関にある遺伝子を互いに結んでいます。この解析を用いることで、遺伝子の制御機構が視覚的に理解しやすくなります。

図3. カリウムおよび炭酸水素ナトリウム添加時のRre37/SigE株の代謝産物量 / 100 mM カリウムおよび100 mM炭酸水素ナトリウムを添加して、嫌気培養3日後の細胞外の代謝産物を測定した結果、Rre37/SigE株は、より多くのコハク酸および乳酸を生産しました。図3. カリウムおよび炭酸水素ナトリウム添加時のRre37/SigE株の代謝産物量 / 100 mM カリウムおよび100 mM炭酸水素ナトリウムを添加して、嫌気培養3日後の細胞外の代謝産物を測定した結果、Rre37/SigE株は、より多くのコハク酸および乳酸を生産しました。

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