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本棚『10万人のホームレスに住まいを!』青山やすし(藤原書店、2,200円)



ニューヨークのタイムズスクエアにある荒れ果てたビルを買い取ってホームレスのための恒久的な住まいを作り、今では全米132の地域で10万戸の住宅をホームレスに提供する活動を展開しているロザンヌ・ハガティ氏。アメリカの代表的な社会起業家である彼女との対談を通して著者が強調しているのは、社会的包容力(ソーシャル・インクルージョン)という考え方である。「貧困問題の解決とは、そもそも生活保護を必要とする人を減らすことである」。問題を抱えた人たちに寄り添い、一人ひとりの潜在的な可能性を開花できるよう支援する。それを個人の慈善活動ではなくプロジェクトとして包括的かつ組織的に行っているハガティ氏の歩みを、著者は対談と論説を通じて魅力的に描き出している。そこから見えてくるのは、地域社会の問題に立ち向かう個々の意思を組織化し、企業や行政と協働しながら活動する「社会企業」のダイナミックな姿だ。日本の市民活動に長年関わってきた私にとっても、新たな方向性を示してくれる一冊となった。

長畑誠・ガバナンス研究科教授(著者もガバナンス研究科教授)