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《本棚》『西洋珍職業づくし—数奇な稼業の物語—』ミヒャエラ・フィーザー 著 吉田 正彦 訳(悠書館、2,800円+税)



にせ医者、砂売り、輿担ぎ。何でも呑みます屋にコーヒー嗅ぎ担当兵。時代の要請と共に生まれて消えた奇妙な職業の数々は、「当時の生活世界を垣間見せてくれる窓」だ。

おかしみと哀しみを織り交ぜた辛口の文章が綴るのは、「移動貸しトイレ業」を生んだ悪臭漂う不衛生な18世紀の都市生活や、「宮廷ムーア人」を死後も剥製として展示させたバロック時代の異国趣味。本書の重点は、“職業=窓”の詳細な記述以上に、その職業が存在し消滅した“背景”の物語に置かれている。

各章の扉を飾る挿絵も同様だ。職業の精密な描写よりも特性の再現を意図した前景と、それを支える大胆な“背景”。地図に広告に楽譜、料金表に死亡調書など、各職業の活躍期に関する生々しい資料が描き込まれている。

「訳者あとがき」の面白さも追記したい。翻訳者自身の専門分野(挿絵入り一枚絵印刷物Flugblatt)から追加されたのは、誰もが耳にしたことのある稼業。広場に飛び交う「物売りの声」の中、竿を担いで闊歩する“あの男”の正体は、是非とも本書でご確認を。

大類京子・経営学部兼任講師(訳者は元文学部教授)