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本棚「地域卸売企業ダイカの展開—ナショナル・ホールセラーへの歴史的所産—」 佐々木 聡 著(ミネルヴァ書房、7,000円+税)



本書は全国的な卸売企業として発展する株式会社「あらた」の前身の一つ、「ダイカ」(函館で創業)に対する歴史的事例研究である。戦後流通業の大きな流れについては、林周二の「流通革命論」が一つの仮説として現時点においても大きな影響力を持っており、その解釈も「問屋無用論」や「問屋斜陽論」など誤解や曲解が繰り返されている。林に対して展開する否定論や疑問は後を絶たないが、そのほとんどは何か一つの事例、それも小さな断片=ディテールを取り上げて、林の大胆なデッサン=全体像と対比しようとしたものに過ぎなかった。本書は一つの卸売企業の「実際」の「流通革命」を克明に追う手法を貫くことにより、「無用」ではなく「浸透・発展」する戦後の日本卸売事業所のプロトタイプを描き出すことに成功している。またその分析領域についても学会トップの経営史的手法が冴えわたる完璧な設定となっている。本書によって戦後の流通史研究はもう一段高いレベルへと押し上げられたことは間違いない。

若林幸男・商学部教授(著者は経営学部教授)