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論壇「キャンパスの多様性を向上させるために」

商学部長 出見世 信之

新年度を迎え、今年も多くの新入生をキャンパスに迎えている。本学には、3万人あまりの学生が学び、その中の約1700人が留学生である。2014年のスーパーグローバル大学創成支援事業採択以降、留学生は年々増えている。また、本学は女子教育の長い伝統を有し、全学的に見ても女子学生の占める割合が3割を超えるまでになっている。こうした数字を見ると、キャンパスの多様性が向上していることが確認できる。

一方で、首都圏の一都三県から、本学に通う学生が増え、その他の道府県出身の学生との割合は、7対3である。この傾向は、他の首都圏にある大学にも見られる。首都圏の学生が多数を占めているにも関わらず、本年2月、文部科学省は、若者の東京一極集中の是正に向け、東京23区内の私立大などに対し、2019年度の定員増と学部新設を原則認めないとし、政府においても、23区の大学の定員増を原則10年間認めないとする法案を通常国会に提出している。

こうした状況を放置すれば、本学の首都圏出身の学生の割合は、ますます高くなり、キャンパスの多様性にも影響する。そのため、本学は2017年に、秋田県、山形県、福島県、石川県、福井県、山口県、香川県、鳥取県と学生U・Iターン就職促進協定を締結し、学生が地方で就職することを支援している。また、これらの地域は、本学の創設者の出身地を含み、さらには、その多くが全学部統一入試の地方会場の隣接地域でもある。

本学は、「『個』を強くする大学」を理念とし、多様な学生がキャンパスに集い、多様な教職員とともに自ら主体的に学ぶことを標榜し、グローバル化のみならず、男女共同参画にも取り組んでいる。ただ、その歩みは決して速いものではない。キャンパスの館内放送や案内板の中には、日本語のみのものも残り、学内の提出書類の大部分も日本語のみである。LGBT(性的少数者、 セクシュアルマイノリティの総称)への配慮も行おうとはしているが、トイレや更衣室などの設備は十分に対応できていない。キャンパスの多様性の推進に対するバリアが残っているのである。

そうしたバリアの多くは、教育や研究の現場において認識されているにも関わらず、それらの認識があまり活かされてはいない。それは、大学のみならず、多くの大規模組織において、効率や管理中心の発想ゆえに集権的な組織が重視されているからである。キャンパスの多様性を向上させるには、現場の認識力・対応力を活かした分権的な組織が必要になる。現場の声を力にすれば、本学のキャンパスの多様性はより向上し、多様性を活かした教育・研究がさらに充実するという好循環が生じるだろう。
(商学部教授)