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中部地域有力卸売企業伊藤伊の展開 —多段階取引から小売直販への移行と全国卸あらたへの道 佐々木 聡 著(ミネルヴァ書房、7,000円+税)



「問屋無用論」などによって想定された卸売企業の社会・経済的役割の終焉が、なぜ現実とならなかったのか。本書は、中部地域卸売企業である伊藤伊の経営史研究を通じてこの課題に取り組んでいる。1980年代後半以降、情報通信の自由化や小売り勢力の広域化・全国化に伴い、日本の流通環境は大きく変化した。著者は、この変化に対する伊藤伊の経営革新を分析し、問屋の役割が終焉しなかった要因やその条件について考察している。

 流通の歴史研究はマーケティング史研究者も取り組む課題である。マーケティング史研究と比較した場合、本書の特徴はその分析射程の広さにある。主題となる流通システムの分析はもちろんのこと、経営者、従業員などの人的資源の分析、蓄積された資産の分析など広範囲な観点から、しかも詳細に検討している。経営史・マーケティング史の研究者はもちろんのこと、流通・マーケティングの理論研究者および実務の方々など多くの人々に読んでもらいたい著書である。

原田 将・経営学部教授(著者も経営学部教授)