Go Forward

新春対談 「明治大学の未来」

世界に発信する大学・研究型大学への転換

リバティタワー23階・貴賓室にて

——あけましておめでとうございます。本日は、「明治大学の未来」と題して柳谷孝理事長、土屋恵一郎学長のお2人に年頭所感も含めてお話をお伺いしたいと思います。始めに、2019年を振り返っての感想をそれぞれお願いいたします。

柳谷 あけましておめでとうございます。2019年は災害の多い年でした。9月の台風15号に続いて、10月には台風19号が日本列島を縦断して各地に甚大な被害をもたらしました。被災された地域の皆さまに衷心よりお見舞いを申し上げます。理事会といたしましても、教学からの要請に基づき被災地域の学生の学費減免や入学検定料の免除などを決定し、早速対応いただいているところであります。

ところで、2019年を学校法人経営の視点で振り返りますと、新たな施設の建設が本格的に動き出した年となりました。海外からの受け入れ留学生と地方出身の日本人学生が共に生活し学ぶ場として216人入居可能な国際混住寮であります「明治大学グローバル・ヴィレッジ」が昨年3月に竣工し、おかげさまで現在は満室となっております。

また、2021年に迎える本学創立140周年の記念事業の1つとして、和泉キャンパスに、初年次教育、教養教育、国際教育などの教学のコンセプトに基づきまして、約1万2千平米の規模で、新教育棟を本年3月に着工することを決めております。こうした取り組みが動き始めましたのも、2018年度決算で、企業の純利益に相当する「基本金組入前当年度収支差額」が、前年度より約5億円増加して19億2100万円となったことが大きな支えとなっております。その要因としては、前理事会が支出の抑制に取り組んでいただいたことを今理事会もしっかりと引き継ぎ、職員の皆さまを中心にコスト削減に取り組んでいただいたことや、教学の皆さまのご尽力で学費改定や収容定員増などで学納金収入が増加したことがあげられます。そして、3年連続で一般入試志願者数が11万人を越えたことも大きな要因となりました。

今後も人類と地球環境の調和した未来を創造できる有為な人材を広く社会に送り出すべく教学と法人が一体となって取り組んでいくことで、2020年を大きな飛躍の年にしたいと考えています。

土屋 あけましておめでとうございます。私は学長就任以来、研究型大学への転換ということを、声を大にして話してきました。2019年には「明治大学再生可能エネルギー研究インスティテュート」と「明治大学生命機能マテリアル国際インスティテュート」という理工学部の教授を所長とする2つのインスティテュートが設置されました。再生可能エネルギー研究インスティテュートは小椋厚志教授による太陽電池を中心とした再生可能エネルギーの創生、その有効と利用と貯蔵までの研究を行い、生命機能マテリアル国際インスティテュートは相澤守教授による人工材料の再生医療などへの医学応用にかかわる研究を行います。2つの注目すべき研究がインスティテュートになったということは大きな意味があったと思います。

また、昨年末には農学部の長嶋比呂志教授による人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使ってブタの体内で人の膵臓をつくる研究計画が大きく報道されたように、農学部における研究も非常に大きく実りのあるものになってきています。明治大学には医学部はありませんが、こうした医学系、生命科学系の研究が高い注目を集め始めています。明治大学が研究型大学となっていく姿が示されてきたのだと感じています。

授業負担を軽減して、研究に専念できるような環境づくりにも着手するなど、研究型大学への基本的な道筋は整ってきています。このことは、次の学長になる方にも引き継いでいただき、ますます明治大学が研究を推進し、それが教育に還元され、豊かなリソースが提供されるようになってほしいと願っています。

4年間を振り返って

——お二方は、明治大学創立135周年の2016年に就任されて以来、4年間の任期最終年度を迎えられています。この4年間を振り返っていかがでしたでしょうか。

土屋 学長への就任直後に2つの大きな出来事がありました。1つ目は、本学が文部科学省・平成28年度(2016年度)「大学の世界展開力強化事業」に採択されたことです。CLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)における経済成長のプロセスに、日本の教訓をどう生かしていくかということがテーマです。これまで明治大学が取り組んできた国際戦略が実を結んだと言えます。

もう1つは、同じく平成28年度「私立大学研究ブランディング事業」に「Math Everywhere:数理科学する明治大学」という事業が採択されたことです。国際分野、数理学分野でも力強い一歩を踏み出したのが就任1年目のことでした。

また、2017年1月に「人権と平和を探求する明治大学」という広告を全国紙に出しました。非常に反響があり、「権利自由」「独立自治」という建学の精神に立ちながら、今の時代に大学のあるべき姿をアピールできたと思っています。さらに、2018年には「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を発表しました。これらは、他大学でも同じように取り組んでいることですが、明治大学ほどこのことを強く押し出した大学はなく、明治の個性が非常にはっきりしたと言えます。具体的な取り組みとして、男女共同参画・障がい者少数者支援担当副学長を新たに置き、障がいのある学生への支援、多様な性に配慮した施策、女性研究者支援などを行ってきました。多様性に開かれた大学であるということをこの4年間の中ではっきり示すことができたことは最大の成果であったと思います。

柳谷 今理事会も残すところ3カ月ほどとなりましたが、この4年間を振り返りますと多くの教職員の皆さまや校友・ご父母の皆さまとお会いできて、また学校法人経営に対する数多くのご意見やご要望、あわせてご支援やご協力も賜りました。そうした点で大変充実した4年間であり、皆さまに厚く御礼を申し上げます。

ところで、今や世界の大学を牽引するハーバードやスタンフォード、MITといったアメリカの大学も1930年代にはまだ教育水準が低く、当時世界の最高峰といわれたヨーロッパの大学に追いつこうと高い目標を定めてさまざまな取り組みをスタートさせました。海外からの移民とともに高い経済成長を実現して高等教育も発展していきましたが、今でこそ広く一般的であります、若手研究者が任期付きで経験を積む仕組みであるテニュア・トラック制や、授業評価であるティーチング・エバリュエーションや、教授陣の国際公募など大学自体もたゆまぬ努力と内なる改革を重ねていったのです。その結果、1970年代にやっと世界のトップユニバーシティの一角として評価されるようになったといわれております。実に40年にわたる挑戦がそこにはあったのです。そうした世界の高等教育の歴史と見比べますと、この4年間はまだ道半ばという気がいたします。明治の卒業生が社会に出て、それぞれの分野でリーダーとして活躍するには20年、30年あるいはそれ以上の時間を要するものでありまして、その点では大学のプレゼンス向上には長い時間軸での取り組みも大切であろうと思います。今後とも引き続き未来に向けて本学が「世界に開かれた大学」「世界に発信する大学」として着実に発展していくことを目指してまいります。

創立140周年記念事業について

——創立140周年記念事業の実行委員長を務められております柳谷理事長に、記念事業の進捗状況をお伺いしたいと思います。

柳谷 2018年末より140周年記念事業実行委員会を開催いたしまして、そのもとに、記念式典・祝賀会、教学関連、スポーツ関連、広報戦略の4つの分科会を設けて、周年事業の計画を具体化しているところであります。この実行委員会には、校友会、父母会、連合駿台会、駿台体育会の代表の方々にも委員として参加いただいており、多くの皆さまのご意見やご要望を周年事業に反映させてまいりたいと考えております。すでに2021年11月1日の本学の創立記念祝日に記念式典と祝賀会を開催することや、先ほど申し上げましたように和泉キャンパスに新教育棟を建設することなども決定しております。また、140周年のロゴマークも決まりました。これからもさまざまな企画を予定してまいりたいと考えておりますので、皆さまぜひご期待ください。

一方で、こうした140周年記念事業を支えるものとして、「創立140周年記念事業募金」を昨年9月より本格的に開始しております。今回の募金では、新しい顕彰制度を用意いたしました。それは、和泉新教育棟の中にある椅子や教室の入口に、寄付者を称えてその方のお名前を刻印したプレートを設置するというものであります。こうした顕彰制度は欧米の大学ではすでに一般的でありますが、本学も今回から「寄付の見える化」を一層進め、記念事業募金賛同への機運を高めてまいります。

なお、2021年は現在の長期ビジョンの最終年度であり、今年はその策定に取り掛かる大変重要な1年になってまいります。従って創立140周年記念事業は、10年後の創立150周年をも見据えたものとなります。昨年まとめられた教学の「グランドデザイン2030」に基づいて学校法人として長期ビジョンを策定してまいりますが、この点でも引き続き教学と法人でよくコミュニケーションを取って進めてまいります。

私も創立140周年記念事業の実行委員長として全力で取り組んでまいりますが、教職員の皆さまはもちろん、校友会、父母会、学生の皆さま、地域のコミュニティの皆さまにもご理解とご協力をいただき、コンパクトで充実した周年事業を実現していきたいと考えております。

「グランドデザイン2030」について

——土屋学長にお伺いします。先日発表されました、教学長期ビジョン「グランドデザイン2030」など、明治大学の将来像についてお聞かせください。

土屋 2030年がどうなっているかを予想するのは難しいことです。私はこの数年、日本私立大学団体連合会の就職問題委員会委員長として経団連とも協議し、新しい就職活動のあり方について考えてきましたが、これから10年、20年たった時に、日本の採用マーケットはアジアに広く開かれたものになるだろうと予測されています。日本は少子化もあり、アジア人材を多く迎え入れる時代が来るのです。そうなると日本の学生たちとアジア人材は競争関係になります。日本の学生たちがアジア人材と競争できるような能力を持たないと、彼らの将来は非常に限定されたものになってしまうのではないかという心配があります。

大学教育においても国内だけを見るのでなく、アジアや世界を意識する必要があります。とりわけ21世紀はアフリカの時代とも言われています。幅広い視野と能力を持った人材を送り出していかなければなりません。そのことに気付けた大学だけが、この先、生き残っていけるのだと思います。

「グランドデザイン2030」では、2030年には外国語による科目を、全講義のうち30%とすることを目標にしています。少なくとも英語でしっかりと勉強できる力がないと、世界で共に働くことはできません。自分の国内だけを見ればいいという時代は終わり、これからはアジアやアフリカなど、世界を見るような教育の内容が必要になると思います。

また、ダイバーシティの観点も重要です。2030年には、本学の教員のうち30%は女性教員となることを目標に掲げています。多様な人種、性別、国籍からなる人たちによって支えられた大学に転換していきます。そのためには施設や、バリアフリーをどう実現していくかということが重要です。さまざまな形の多様性に応えうる大学になっていく準備はすでに始まっています。

校友会と父母会と共に「前へ」

——本学設立趣旨の中に「同心協力」という言葉がある通り、本学は、学生教職員はもとより校友・父母と協働して歴史を歩んでまいりました。最後になりますが、校友・父母とのさらなる連携についてお聞かせください。

柳谷 明治大学の「権利自由」「独立自治」という建学の精神は、清冽な地下水として今日まで脈々と受け継がれています。その建学の精神のもと、多様な「個」を磨き、自らの道を切り拓いて「前へ」と進んでいくことこそ「明大スピリット」であります。これからも私たちはこの明大スピリットの襷を後輩へと引き継いでいかなければなりません。

創立者の3人が文字通り「同心協力」をしてつくったのが、今日の明治大学であります。その明治から巣立つ学生たちがそれぞれの大きな舞台に挑戦して活躍していくことは、私たち共通の願いでありましょう。向殿校友会名誉会長と北野校友会長がともにおっしゃっているのが「明治はひとつ」。

校友の皆さまが1つになって学生を支援していただくことは、本学にとりましても大変心強いものがございます。私もこれまで各地の支部に伺ってまいりましたが、今後も校友会の56の支部、224の地域支部、そして23の海外紫紺会の皆さまとの連携を一段と深めてまいりたいと考えております。

また、私ども法人役員や大学役職者をはじめとする大学関係者は、ご父母の皆さまにとりましても明治が「第二の母校」となりますことを、そしてご家庭で明治大学のことが共通の話題となって子どもたちの声をしっかりと受けとめる、そのきっかけとなりますことを切に願っております。そしてご父母の皆さまから、「明治大学に入れてよかった」というお言葉が頂戴できますならば、この上ない喜びでございます。これからも、校友会、父母会の皆さまと共にスクラムを組んで「前へ」と進んでまいりたいと考えておりますので、本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

土屋 学長になってから全国各地の校友会支部総会に出席をさせていただきました。学部長時代から考えるとほぼすべての地域に行き、校友の皆さんとお会いしました。今は各支部で顧問になられていらっしゃいますが、15年前頃に私が法学部長として訪れて知り合った当時の校友会役員の方々と何年振りかにお会いしてお互い元気なことを確認できたことがとてもうれしかったですね。

また、2017年の全国校友沖縄大会では、戦時中や戦後も非常につらい思いをなさった校友の方々にお会いしました。戦時中に多くの沖縄の人々の命を救った校友の荒井退造氏の慰霊祭もあり、これからも沖縄の人々の平和への想いを受け止める大学であり続けたいと強く感じました。このように校友の方々と、それぞれの地域で会うことによって、改めて明治大学の歴史と、創立以来の精神を思い起こすことができました。

父母会との連携としましては、この4年間で韓国、台湾、中国、マレーシアなど海外父母会にもお伺いし、留学生の父母の方々も明治大学に対して強い思いを抱かれているということがわかりました。

駅伝の応援に1000人集まったり、年末のラグビー明早戦にも1300人を超える多くの父母が集まって応援してくださる。第二の母校としてスポーツ応援を中心に盛り上がっていただいています。校友も父母も明治大学にとっては大事な財産であり、明治大学が強く支えられているということを実感した4年間でした。校友会や父母会の皆さまと、学長の職を離れてお会いできなくなることは寂しくもありますが、引き続き明治大学を支えていただきたい、そのことをお願いしておきたいと思います。

私はこの3月で学長の職から身を引くわけですが、この4年間を振り返ってみますと理事長をはじめとする法人と教学の関係が良好であった4年間でした。明治大学の歴史を振り返ってみると、必ずしもそうでなかった時期もありましたので、次の4年間も同じように法人と教学が共に手を携えて、明治大学の存在感を高めていっていただきたい、そう願っております。

——明治大学の未来のために、教職一体となってナンバーワン、オンリーワンを目指していきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

明大スピリットの襷を引き継いでいきたい

理事長 柳谷 孝



1975年明治大学商学部卒業。1975年野村證券㈱(現:野村ホールディングス㈱)入社。
1997年同社取締役、2002年同社代表取締役専務取締役、
2006年同社代表執行役副社長、2008年同社副会長など歴任。
昭和産業㈱社外取締役などを務める。2016年5月より現職

さまざまな多様性に応える準備は始まっています

学長 土屋 恵一郎



1970年明治大学法学部卒業、1977年同大学院博士課程単位修得退学。
1978年明治大学法学部助手、1993年同教授。
法学部長、教務担当常勤理事など歴任。2016年4月より現職。
専門分野「法哲学、近代イギリス思想史」