Go Forward

本棚「カラー版 甦る戦災樹木」—大空襲・原爆の惨禍を伝える最後の証人— 菅野 博貢 著(さくら舎、税込3960円)



木造住宅を焼き払う空襲にさらされた日本にだけ存在する戦災樹木を、東京、全国、広島・長崎の3部構成で、現地調査によって丁寧に記録した労作である。「終戦」が1945年であるので、戦災を被ってから、すでに80年近くが経過している。戦災樹木が辛うじて生きてきたのは、樹木という生きものが全身の組織が生きているのではなく、生きている組織は一部であるという、ヒトとは異なる生き方を取っているからであろう。

今日、街路樹の伐採と更新の機会が多くなり、反対運動が盛んである。これは、同じ生きものであることから生まれる市民と樹木の連帯感や、寿命が長く大きな生きものに対する市民の畏敬の念によると考えられる。市民の反対によって見直された国立市のさくら通りのソメイヨシノの植え替えは1960年代に植栽されたものであることを考慮すると、これほどの被害を受けたにもかかわらず、戦災樹木は社会の中でよく生かされていると感じる。被害を受けて成長が遅いことが、生き延びることにつながっているのかもしれない。

倉本 宣・農学部教授(著者は農学部准教授)