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スピンオフ『山田轟法律事務所』振り返りコメント

カフェ燈台の電飾看板

 
2026.3
 
スピンオフ『山田轟法律事務所』を振り返って
 
明治大学法学部教授、大学史資料センター所長
村上 一博

 朝ドラ『虎に翼』の放送が終わって一年半、多くの皆さんからの熱烈なリクエストを受けて、待望のスピンオフ『山田轟法律事務所』がようやく陽の目を見ました。

 敗戦後の上野を舞台に、山田よね(土居志央梨さん)と彼女を取り巻く人々の人間模様が幾重にも重なり、彼女の《怒り》の理由と憲法14条を壁面に墨書するに至った経緯が描かれました(私にとっても、朝ドラのセットで、壁に黒々と書かれた憲法14条を初めて見たときの衝撃は今も忘れられません)。よねの《怒り》は、ガサツな単に暴力的な怒りではなく、世の中の理不尽さへの、何ともやるせない、どこにもぶつけようのない“悲しみ”“哀しみ”“愛しみ”・・・が入り混じった《怒り》だったのです。
 幸せなことに、今回のスピンオフにも「法律考証」として制作に携わりましたので、前回の「[連載]振り返りコメント」に続いて、私なりの雑感を少し述べておきたいと思います(なお、振り返りコメントは、明治大学史資料センター編『白雲なびく 遥かなる明大山脈』シリーズの第6巻「女子部編」に、他の論稿とともに、収録されています)。
 
 よねの切ない《怒り》について、(1)カフェ「燈台」のマスターで、瀕死の状態にあった増野(平山祐介さん)がよねに語り掛けるシーンと、(2)進駐軍を相手に身を売り、よねから軽蔑されていた、姉の夏(秋元才加さん)が少女松子を相手に、よねについて話すシーンは、まさに圧巻でした。
 (1)増野はよねに語ります。「どうしようもない奴らを大勢見てきた・・・人ってのは弱いから、欲にまみれて悪に染まって鈍感に生きてる方が楽なんだよ・・・そういう奴らはさ、よねちゃんが傍にいると、ギュウって胸がなる。楽なだけで大抵の奴らは、今の自分が大嫌いだからね。それでさ、少し良い人間になりたくなるんだ・・・それって誰にでもできることじゃない。本当に凄いことなんだ・・・だから、決して自分を曲げるな。今まで通り怒り続けるよねちゃんでいるんだ・・・でも、正しく怒るんだよ・・・今はそう思えなくても、学んだことは、法律は、絶対よねちゃんを裏切らない・・・自分を信じて、君の正義を信じて正しく怒り、正しく不機嫌でいるって約束してくれ・・・よねちゃんがいてくれて、ほんの少しだけ良い人間になれたかもって思えて・・・ありがとうね」。
 (2)夏は松子に言います。「あの子、本当になんにも変わってなかった。口答えして父ちゃんに殴られてた頃のまんま・・・あの子は舐められたり奪われたりしない為に闘う。舐められても奪われても折れない。怒り続ける・・・あたしと違ってうまい話にふらつかない。誰も決して傷つけない・・・そんな、自慢の妹だった・・・だからあの子が頼ってきてくれた時、嬉しかった・・・あの子に頼られる姉ちゃんでいられることが誇らしかった・・・あの子はこれからももっと立派に怒り続けるさ」。
 
 死んでいった増野と夏、この二人の想いを受けて、よねの《怒り》は頂点に達し、泣きながら絶叫していましたね。「どいつもこいつも、どいつもこいつも! 怒り続けろ!? 好きなだけ不機嫌なままでいい!? 正しく怒れ!?・・・別に怒りたくて怒ってるんじゃない! 不機嫌でいるわけじゃない! 世の中がどうしようもないからだ!」と。
 しかし、喚いているだけの不甲斐ない自分を意識し、このままだと自分もただのクソになると、我に返ったよねは、自分の進むべき道、一筋の希望の光を見出しました。それが憲法14条であり、憲法14条を社会に反映させるために、彼女は弁護士を目指すという筋書きでした。
 
 スピンオフ、如何だったでしょうか。全編を流れる重たい空気感から、あなたにメッセージは届いたでしょうか。
 映画版『虎に翼』の撮影も順調に進んでいます。公開予定は、来年初旬です。ご期待ください。
 
【お断り】
 引用したセリフは、台本のものであり、放映されたセリフとは若干異なっています。
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