過去の展覧会 2019年

氷期の狩⼈は⿊曜⽯の⼭をめざす-明治⼤学の⿊曜⽯考古学-

特別展
氷期の狩⼈は⿊曜⽯の⼭をめざす-明治⼤学の⿊曜⽯考古学-
(1)実施形態
主 催 明治大学博物館
企 画
明治⼤学博物館 明治⼤学⿊耀⽯研究センター ⻑和町教育委員会
会 期 2020年10⽉15⽇(⽕)〜1⽉27⽇(⽔) 104⽇間(⽇曜・祝⽇,冬季休業期間は閉室)
※当初会期10⽉15⽇〜12⽉15⽇を1⽉27⽇まで延⻑
※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として開室時間を平⽇:10:30〜16:30,⼟曜10:30〜12:30に変更
会 場 アカデミーコモンB1 博物館特別展示室
入場料 無料
入場者数 805名(同期間常設展1,240名)
担 当 者 島⽥和⾼(博物館学芸員)

(2)概要
 1950年の⽂学部考古学専攻の設置と1952年の明治⼤学考古学陳列館の開館にはじまる明治⼤学の考古学は,⽇本列島の旧⽯器時代,縄⽂時代,弥⽣時代そして古墳時代を中⼼に多数の遺跡発掘調査を⾏い,戦後の⽇本考古学を牽引してきた。それらの研究テーマは多岐にわたるが,系統的に現在まで引き継がれてきている。このたび博物館は,1980年代半ばより⻑和町(⻑野県)と明治⼤学が共同で取り組んできた中部⾼地⿊曜⽯原産地における旧⽯器・縄⽂時代の⿊曜⽯研究の35年余りに及ぶ研究の歩みを振り返り,これを受け継ぐ形で2010年より明治⼤学⿊耀⽯研究センターが中核となって展開した考古学,古環境学,分析化学による学際共同研究の最新成果を公開することを⽬的とした特別展を企画した。「明⼤⿊曜⽯考古学」とも総括しうる,地域連携を織り込んだ研究の特⾊と⿊曜⽯を題材とした過去のヒトと資源と環境の相互作⽤を究明する科学の⾯⽩さを展⽰をとおして伝えられたとすれば幸いである。
 本特別展は博物館が主催し,明治⼤学⿊耀⽯研究センターと⻑和町教育委員会の協⼒のもと2020年10⽉15⽇〜2021年1⽉27⽇にかけて開催された。しかしながら,新型コロナウィルス(COVID-19)感染拡⼤の影響から展⽰構成の⼤幅な計画変更を余儀なくされ,予定していた関東・中部地⽅全域を対象とした旧⽯器時代の⿊曜⽯利⽤の時系列での変化を再現する展⽰は,資料調査等への制約から省略せざるをえず,全体にパネル解説を中⼼とした展⽰内容へと修正した。展⽰項⽬ごとの概要は後述のとおりである。
 ⼤学⽅針による博物館本体の臨時休館措置は,感染対策を講じた上で開幕直前となった11⽉11⽇より解除され,開館時間や開館⽇は制限したものの,⼀般市⺠の来館も可能となった。しかしながら,結果として常設展⽰も含めて特別展への来館者数は例年の1/10以下の実績となった。特別展の準備期間中から,仮に開館を再開しても来館者数には強い制約がかかると予想されたため,バーチャル展⽰室(ウェブコンテンツ)によるオンラインでの特別展の公開を企画し,10⽉末に明治⼤学博物館Online ミュージアムで公開した。これは展覧会のアーカイブとして常時閲覧可能である(6.情報発信を参照)。また12⽉には,このコンテンツを⽤いた展⽰解説を明治⼤学リバティアカデミーの試験的なオンライン講座の⼀環として実施し,125名の視聴があった。
 最後に,COVID-19による困難な状況下にも関わらず,展⽰の準備と開幕にあたってご尽⼒とご協⼒を頂いた関係機関および関係各位に感謝の意を表する次第である。

(3)展示構成
(1)「なぜ⿊曜⽯を研究するのか-世界の⿊曜⽯研究-」
 ⿊曜⽯は⽕⼭の噴⽕で噴出したマグマが冷え固まった⽕⼭ガラスである。原産地は世界各地の⽕⼭帯地域に分布し,打ち⽋きやすく,簡単に鋭利な刃先が得られることから,各地の⾦属器使⽤以前の先史時代⼈が⽯器の原材料として利⽤していた。⿊曜⽯遺物は原産地から最⼤で数千キロメートルの広域にわたって分布する性質があるため,世界各地の⼈類学・考古学者が先史時代⼈の広域移動や交易などの実態を解明するために⿊曜⽯研究を進めている。⽇本列島には,北海道,中部・関東,九州北部に⼤規模な⿊曜⽯原産地があり,旧⽯器・縄⽂時代⼈の広域の移動や交換・交易などのテーマが原産地と遺跡の研究により深く掘り下げられている。
(2)「明治⼤学の⿊曜⽯考古学クロニクル」
 明治⼤学は,1984年より⻑野県⼩県郡⻑和町と共同で,中部⾼地⿊曜⽯原産地で鷹⼭遺跡群の発掘調査を進め,旧⽯器時代の⼤規模⽯器製作⼯房や縄⽂時代の⿊曜⽯地下採掘鉱⼭の実態解明に成果を上げた。2000年には,現地に明治⼤学⿊耀⽯研究センターを設置,原産地研究を進めるとともに,学内の社会連携機構と連携して⻑和町への学内研究リソースの還元などを含む地域連携事業を展開した。2010年以降,私学助成⾦などを活⽤し考古学,古環境学,⿊曜⽯遺物の原産地同定を⾏う分析化学の学際共同研究を広原湿原と広原遺跡群を中⼼に実施。先史⿊曜⽯研究の国際交流と国際発信にも重点を置き,ヒト-資源環境系の⼈類史の観点から研究の幅を広げつつ現在に⾄る。
(3)「最終氷期におけるヒトと⿊曜⽯のダイナミクス」
 2010年から⿊耀⽯研究センターが展開した⽂科省私⽴⼤学戦略的研究基盤形成⽀援事業「ヒト-資源環境系の歴史的変遷に基づく先史時代⼈類誌の構築」では,広原湿原の古環境調査と広原遺跡群の発掘調査を中⼼に⿊曜⽯の利⽤を媒介としたヒトと環境変動との相互関係を解明する共同研究プロジェクトを実施した。中部⾼地原産地に位置する広原湿原で得られた過去3万年間の中部⾼地古環境変遷と8.5万件の⿊曜⽯遺物原産地分析結果などをもとに解明した,氷期である旧⽯器時代における中部⾼地原産地開発の変遷にみられるダイナミクスを展⽰パネルを中⼼に解説した。また,広原遺跡群の出⼟品を展⽰し,遺跡の解析から解明した原産地での⿊曜⽯獲得をめぐる⼈類⾏動を紹介した。
(4)「完新世初頭の気候温暖化と鉱⼭活動」
 1991年に星糞峠の発掘調査で発⾒された縄⽂時代の⿊曜⽯採掘鉱⼭は,その後2001年に国史跡に指定され,2007年〜2019年にかけて⻑和町教育委員会により史跡整備に伴う発掘調査が実施された。地表から3〜4メートルの深さにある⿊曜⽯を包含する星糞⽕砕流堆積物をめざし,⼭の斜⾯を繰り返し切り崩した鉱⼭活動はどのように始まったのか。広原湿原の古環境記録に⽰されたように,晩氷期以降のグローバルな気候温暖化による中部⾼地原産地の森林化が,旧⽯器時代的な地表や河床での⿊曜⽯採取から,地下に埋蔵された⿊曜⽯を採掘する縄⽂時代的な組織的活動への変化を促した可能性が⾼い,という仮説を紹介した。
 
(4)展示資料の概要
 出展総数:合計278点。⿊曜⽯製ほか考古遺物・⺠族資料262点+α,⿊曜⽯考古学成果等関連書籍14点,地域連携協定書2点。主要解説パネル20枚。

(5)関連イベント
(1)開催記念講演会
新型ウイルス感染症(COVID-19)拡⼤防⽌により開講せず。
(2)ギャラリートーク
ア 展⽰内覧会
 学内役員・役職者を対象に対⾯で展⽰解説を⾏なった。
 第1回開催11⽉18⽇(⽔)12:45〜,15:00〜(⿊耀⽯研究センター関係者を含む)
 第2回開催11⽉25⽇(⽔)14:00〜
イ 明治⼤学リバティアカデミーオープン講座(オンライン開催)
 「明治⼤学博物館Onlineミュージアム」のバーチャル特別展コンテンツを活⽤し,オンライン展⽰解説を⾏なった。
 タイトル:「明治⼤学Onlineミュージアムに⾏こう!②」
 講師:島⽥和⾼明治博物館学芸員
 ⽇時:12⽉12⽇(⼟)14:00〜15:00
 視聴者数:最⼤125名
 
(6)頒布物
(1)展⽰図録
 編著:島⽥和⾼
 タイトル:2020年度明治⼤学博物館特別展『氷期の狩⼈は⿊曜⽯の⼭をめざす-明治⼤学の⿊曜⽯考古学』ガイドブック
 発⾏:2020年10⽉15⽇ 明治⼤学博物館 104⾴ 1,000部 頒価¥1,000
(2)ミュージアムグッズの制作
 会期中の来館者制限のため制作せず。

(7)バーチャル特別展(ウェブコンテンツ)の制作
天球カメラとスチルカメラによる画像をもとに⾃由探索型のバーチャル展⽰室を制作した。明治⼤学博物館Onlineミュージアム(http://ict-museum-meiji.tokyo/)において,2020年11⽉1⽇より公開した。