館長あいさつ     横の経緯・縦の経緯

 研究交流で国内外の学会・会議に参加したときに私は、その地域の博物館を訪れるようにしています。展示を見ながら私は、「横の経緯」と「縦の経緯」に想像をふくらませて楽しんでいます。「横の経緯」とは、展示されているものは通例、博物館の所蔵品のごく一部なので、膨大な所蔵品の中からなぜ今ここにある展示品が収蔵庫から運び出されて展示されているのか、という空間的な経緯です。「縦の経緯」とは、博物館がどうして膨大な所蔵品を有するに至ったか、という過去からの歴史的な経緯です。

 では、明治大学博物館の「横の経緯」と「縦の経緯」を、来館者の皆さんが深く楽しみを味わうために、かいつまんでお話ししましょう。

   横の経緯:当館の収蔵庫には、約45万点の物品・資料が保管されています。すなわち展示されているものは収蔵物の数百分の1程度にすぎません(現在、オンラインミュージアムやデジタルアーカイブの形での公開も鋭意進めてはおりますが、それでもごく一部です)。どの物品・資料を、どのような理由で展示に選定するのかは学芸員の腕の見せ所です。当館の常設展の展示もおよそ10年ごとに、展示コンセプトについてかんかんがくがくの議論が重ねられ、リニューアルされています。展示の背後にはこうした苦労があることをご想像いただきたいと存じます。また、収蔵庫にある資料を活用してのイベントも積極的に企画して行きます。どうぞご期待ください。

   縦の経緯:当館の常設展には、考古・刑事・商品の3部門があります。それぞれに大学の博物館にふさわしい研究の歴史があります。考古部門は、「日本考古学界の巨人」とも称された杉原荘介教授を中心として、1950年の創設以来、戦後の日本考古学を牽引した文学部考古学専攻による日本各地の発掘調査資料や杉原氏が収集した資料を核としています。刑事部門は、戦前は刑罰具類の収集を、戦後は法学部島田正郎教授の指揮のもとで、法学部鍋田一助教授を中心に明治立法史関係文書を、文学部木村礎教授を中心に村方文書を収集し、多くのすぐれた法制史、日本史研究を生み出してきました。商品部門は、商学部の林久吉教授・吉岡幸作教授らによる研究グループの資料室をルーツとし、1950年代後半から収集をはじめた地方物産品のコレクションを土台に、1970年代半ばからは今日で言う伝統的工芸品を収集・展示の対象として今日に至っています。また当館には、図書資料13万点、雑誌3000タイトルを擁する図書室があります。そこには、全国では当館にしかない貴重な研究資料も保管されており、第一線の研究者が調査を重ねる場ともなっています。博物館友の会に入会されれば、研究講演会などの催しに参加し、研究の一端に触れることも可能です。当館の展示が長年の研究による成果に支えられているという事実をご理解いただければ幸いです。

   ぜひ多くの方々にご来館いただき、明治大学の社会貢献の一環としての博物館活動を目の当たりにしていただきたいと存じます。私たち博物館スタッフ一同、心よりお待ち申し上げております。

石川 幹人

  (情報コミュニケーション学部教授/いしかわまさと/認知情報論)