Go Forward

研究所研究費採択課題詳細 2006年度

行動経済学の理論と実証

研究課題名 行動経済学の理論と実証
研究所名 社会科学研究所
研究種別 総合研究
研究概要 (研究実施計画)
 1年を通して,月に1回程度のペースで研究会(行動経済研究会)を開催する。2006年度の前半では,企業家(経営者)に対する調査を行う。調査は,大企業に対する調査と中小企業に対する調査を予定している。4月から6月までに,海外の先行研究のサーベイを行い,調査票を確定させる。そして,7月に企業家(経営者)に対する調査を実施する。この調査では,投資決定や価格設定における情報利用,その際の貨幣錯覚の有無などについて聞く予定である。この調査から得られたデータを用い,解析することで,各共同研究者が順次,研究発表を行う。
 そして,10月以降は消費者に対する調査も行う予定である。これは,2005年度に行った調査で取り込めなかった質問票や発展させた質問票からなる。これについても,2005年度の調査から得られたデータを加え,この調査から得られたデータも用い,解析することで,各共同研究者が順次,研究発表を行う。
 支出内訳のうち,消耗品費は共同研究者の使用する資料のコピー代を計上したものであり,旅費交通費は,共同研究者の1人が新潟の大学に勤務しているため,明大での研究会に出席するための交通費を計上したものである。また,業務委託費は,消費者への調査を調査会社へ委託するため,それを計上したものであり,兼務職員人件費は,研究会で使う資料の準備や統計解析の補助としてのアルバイト代を計上したものである。そして,郵便費は,企業家(経営者)への調査におけるアンケートの郵送料を計上したものである。
 なお,研究成果の公表に関しては,2005年度の調査から得られたデータを用いて,解析を行い,社会科学研究所のディスカッションペーパー「消費における貨幣錯覚の実証研究」という論文にまとめた。これは,6月に開催される日本経済学会にて報告する。
 ここで,われわれが予定している調査のイメージを示すために,企業家(経営者)に行う調査の具体例を紹介してみよう。調査は仮想実験であり,経営者がある状況下にあると想定してもらい,それが実際に起きたとしたら,どのような行動をとるか,もしくはどのような評価をするかを判断してもらう。
質問例
次の質問は,2006年になされたとする。
質問
あなたは,オフィスのコンピューター・システムを構築するシンガポールにある法人部門の長であると想像してみよう。あなたは今,2008年に引き渡されるべき新しいシステムの販売のために地元の企業との契約にサインしようとしている。これらのコンピューター・システムは現在,1つ1000ドルで販売されているが,インフレのため,生産費用とコンピューターの価格を含めたすべての価格が次の数年間,上昇すると予想された。専門家の最良の予測によると,シンガポールの今後2年間の物価は約20%高くなるだろうが,20%より高くなるかもしくは低くなるかの確率は同じである。その専門家は,物価の10%上昇は30%の上昇と同じ確率であると認めた。あなたは今,このコンピューター・システムに対する契約にサインしなければならない。完全な支払は,2008年の引き渡しによってのみなされるだろう。あなたは,2つの契約を利用可能である。以下の契約のうち,適当な契約をチェックすることであなたの選好を示しなさい。
契約1:あなたは,その時点のコンピューター・システムの価格がどうあれ,1つ1200ドルで2008年にそのコンピューター・システムを売ることに同意する。
契約2:あなたは2008年価格(物価スライド)でコンピューター・システムを売ることに同意する。
 契約1は名目価格であり,名目値としてはリスクなしである。契約2は2008年価格であり,実質値としてはリスクなしである。経営者が経済合理性に基づき行動していれば,実質値としてリスクなしの契約を選ぶはずである。しかし,被験者の経営者は名目でのリスクなしの契約を選ぶ可能性がある。このような質問により経営者サイドにも貨幣錯覚があるか調べることができる。もし被験者の経営者が実質より名目でのリスクなしの契約を選ぶとすれば,現実には物価スライドのない契約が好まれるという現象を補強する証拠となる。
研究者 所属 氏名
  商学部 教授 千田亮吉
  商学部 教授 山本昌弘
  情報コミュニケーション学部 教授 塚原康博
  駿河台大学 助教授 佐川和彦
  敬愛大学 助教授 馬場正弘
  流通経済大学 助教授 松崎慈恵
  新潟国際情報大学 助教授 安藤潤
  国士舘大学 講師 永冨隆司
研究期間 2005.4~2008.3
リンク