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新領域創成型研究・若手研究詳細 2007年度

パラメーターイデアルとそのソークルイデアルに関する研究

研究課題名 パラメーターイデアルとそのソークルイデアルに関する研究
研究種目等 若手研究
研究概要 (研究目的)
 私の研究分野は,代数学「可換環論」である。その中でも本研究の学術的背景にある研究は,1974年にC. PeskineとL. Szpiroによって可換環論の言葉を使い整備された「Linkage Theory」である。Linkage Theoryはそもそも代数幾何学に端を発する研究であるが,Peskin-Szpiroによる功績によって,代数幾何学的興味と共に可換環論的興味も合わさり,Linkage Theoryは様々な研究者によって研究されてきた。特に,1980年代にはC. HunekeやB. Ulrichらによって,またそれに続き1990年代にはA. Corso,C. Poloni,W. V. Vasconcelosらによって興味深い結果が得られている。
 上記のPeskine-Szpiroによる結果を踏まえた上で,特に可換環論的な興味からみると,リンクの問題は,Cohen-Macaulay環内のイデアルJに含まれる長さが丁度Jの高さnだけある正則列z1,z2,…,znに対するイデアル商(z1,…,zn):Jの構造解析という問題に換言されるだろう。ここで,Cohen-Macaulay局所環(A,m)内では正則列を考えるということは環の(部分)パラメーター系を考えることに他ならないので,この研究における最も典型的な研究対象は,パラメーターイデアルQのソークルイデアルQ:mである。Cohen-Macaulay局所環内のソークルイデアルについては,A. Corso-C. Huneke-C. Polini-W. V. Vasconcelos-後藤らによって非常に綺麗な結果が得られた。彼らの結果により,Cohen-Macaulay局所環内の非常に多くのパラメーターイデアルQとそのソークルイデアルI=Q:mに対して,「等式I2=QIが成り立つ」ということが示された。1954年にD. G. NorthcottとD. Reesによって導入されたこの「節減」や「節減数」といった概念は,現代可換環論では重要な概念の一つであり興味深い研究対象である。例えば,上記のようにCohen- Macaulay環内で等式I2=QIが成り立つことがわかると,イデアルIに付随するRees代数および随伴次数環がCohen-Macaulay環になることが知られている。さらに最近になって,環AがBuchsbaum(Cohen-Macaulayよりも条件の弱い環)のときには,ソークルイデアルI=Q:mについて,「もし等式I2=QIが成り立つならば,イデアルIに付随するRees代数や随伴次数環はBuchsbaumである」という注目すべき結果(後藤四郎-西田康二,山岸規久道)が得られている。このRees代数や随伴次数環の環構造研究は,現代可換環論の主要な研究テーマの一つであり,Rees代数の環構造解析は可換環論的な興味だけではなく,代数幾何学の特異点解消の研究とも絡む重要な研究である。Buchsbaum性を解析した「後藤-西田,山岸」の定理はその意味でも興味深いものである。
 彼らの結果を踏まえると,このリンクに関する問題は,Cohen-Macaulayとは限らない一般のネーター局所環(A,m)内のパラメーターイデアルQに関するソークルイデアルQ:mの構造解析という方向性もあり得ると私は感じ,その研究に従事し始めた。
 私のこれまでの研究では,主に環AがBuchsbaumの場合について考察し,上記A. Corso-C. Huneke-C. Polini-W. V. Vasconcelos-後藤の定理を,非常に自然に拡張した。詳しく述べると,ソークルイデアルがパラメーターイデアルにどれだけ近いかという度合いを表す,上記「節減数」という概念とは異なる尺度である「可約指数」に着目し,さらに,この二つの不変量「節減数」と「可約指数」との間に,ある関係が存在することを発見し,その関係を上記A. Corsoらの定理の拡張になるような形で与えた。この「節減数」と「可約指数」は各々まったく異なる動機付けから定義された不変量であるにもかかわらず,実は,密接な関係が隠されていたことに気付いたことが,この研究を成功させた鍵である。さらに,この結果から,等式I2=QIを満たすイデアルQの例が非常に豊富にあることが示された。この意味でこの研究は,上記の後藤-西田,山岸の定理の有用さを保証するとともに,豊富なBuchsbaum Rees代数の存在を保証するという意味においても,有意義なものである。
 このようにLinkage Theoryから端を発した問題は,現在その研究対象・興味は多岐にわたっている。このような背景を踏まえ,本研究では,本来持っている重要性も考慮し,特に「ソークルイデアルの構造研究」さらにここから派生した「パラメーターイデアルの可約指数に関する研究」及び「節減および節減数に関する研究」を基礎に据え,これらの研究で得られるイデアルの構造論を用いて「Blow-up代数,特にRees代数や随伴次数環の環構造解析」を研究目的とする。現代可換環論において,Rees代数や随伴次数環の環構造研究は,代数幾何・特異点論と関係し,本研究と独立した一つの研究課題としても重要な意味を持つ研究である。Rees代数などの環構造を研究する場合,基礎環がCohen-Macaulayであると仮定し,そのCohen-Macaulay性を議論することは古くから頻繁に行われているし,また知られている結果も多い。そこで,本研究では,基礎環がCohen-Macaulayよりも弱い場合,例えばBuchsbaum環の場合のイデアルの構造論を用いて,Rees代数や随伴次数環の環構造研究,特に,Buchsbaum性について研究する。

(研究実施報告)
 2007年度にはFLCを持つ加群やSequentially Cohen-Macaulay加群のパラメーターイデアルに関する研究が行われた。特にSequentially Cohen-Macaulay加群に関する研究は,基礎的な研究が完成されつつある。その途中経過は,下記に述べるベトナムで行われた研究集会において発表された。このような研究活動の中で本研究費は主に,準備品費(書籍等購入)と旅費として用いられた。参加した研究集会としては,第29回可換環論シンポジウム(名古屋),The 3-rd Japan-Vietnam joint Seminar on Commutative Algebra (Hanoi, Vietnam),第20回可換環論セミナー(勝浦)が挙げられる。特に,The 3-rd Japan-Vietnam joint Seminar on Commutative Algebra (Hanoi, Vietnam)では,上記した事柄に関する講演(口頭発表)を行った。また,本研究題目に関連する次の論文が雑誌に公表された。
Thomas Marley, Mark W. Rogers, and Hideto Sakurai, Gorenstein rings and irreducible parameter ideals, Proc. Amer. Math. Soc., Vol. 136, No. 1 (2008), 49--53.
研究者 所属 氏名
  研究・知財戦略機構 ポスト・ドクター 櫻井秀人
研究期間 2007.6~2008.3
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