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特定課題研究ユニット詳細 2006年度

生活習慣病防御食品開発基盤研究所

研究所名 生活習慣病防御食品開発基盤研究所
研究課題名 高度技術による生体内ストレスの分子基盤解析と生活習慣病防御食品の開発
研究所概要 (研究目的・成果達成のイメージ)
 生活習慣病の発症原因については未解明の部分が多いが,体内で生じるストレスがその一部であると考えられている。例えば糖尿病合併症の発症機構には「酸化ストレス」や「カルボニルストレス」が関わっていると推定されている。酸化ストレスとは,反応性の高い活性酸素種によりタンパク質,DNAなどの生体部分が傷害を受けるものである。一方,カルボニルストレスはグルコースなどのカルボニル化合物がタンパク質などの生体分子を攻撃するものである。この反応はとくにメイラード反応と呼ばれる。これら生体部分が受けた「傷」が発症へ結びつくとの推定がなされているが,その詳細な機構は依然として不明である。したがってストレスに起因する疾病を予防する食品を開発するためには,まずストレスに対する生体応答を明らかにする必要がある。本研究は,[1]酸化ストレスおよびカルボニルストレスの生体傷害機構および生活習慣病発症機構の基礎的知見を得ること,[2]得られた知見を基盤とした生活習慣病予防食品を開発することを主たる目的として計画されたものである。具体的には,[1]においては①メイラード反応の詳細な機構解析と生成物の構造解析,②ストレスに対する細胞応答とその機構の解析,③ストレスにより傷害を受けた生体内タンパク質の網羅的解析,④傷害を受けたタンパク質を特異的に検出する抗体の開発,を行う。一方[2]においては①酸化ストレスを抑制する食品因子の探索,②カルボニルストレスを抑制する食品因子の探索,③ナノテクノロジーを応用した食品開発,④ストレス関連構造を利用した生活習慣病診断方法の開発,を行う。

(2006年度の研究実施概要)
【生体内酸化ストレスの分子基盤の解析】
 生活習慣病発症と酸化ストレスの関わりを検討する目的で,以下の研究を行った。メタボリックシンドロームは,糖・脂質代謝に重要な役割をもつインスリンが標的細胞で作用しにくくなる「インスリン抵抗性」を発端として発症する。2006年度の研究では,インスリンによる糖代謝制御に重要な役割を果たす転写因子FKHRの核外移行が,パラコートおよびAMVNラジカルによる酸化ストレスによってインスリン非依存的に促進することを見いだした。この核外移行は,インスリン依存性の核外移行と異なりFKHRのリン酸化を伴っておらず,移行に要する時間も数時間程度と長いことを明らかにした。一連の結果は,酸化ストレス刺激がインスリン作用に影響を及ぼす新規経路の存在を示すものであった。
【カルボニルストレスに対する細胞応答の解析】
 アミノカルボニル反応の中間体である3-デオキシグルコソン(3DG)の生理作用について検討を行い,3DGがラット肝細胞に対して小胞体ストレスを惹起することを明らかにするとともに,小胞体ストレスを介したアポトーシスを誘導することを見いだし,糖尿病合併症発症機構におけるカルボニルストレスの意義について新たな知見を与えた。
【難消化性デンプンのプレバイオティクスとしての作用】
 難消化性デンプンのプレバイオティクスとしての作用を明らかにする目的で,Hi-maizeを9%の濃度で含む飼料をラットに4週間与え,大腸(盲腸,上部結腸,下部結腸)のプロテオーム解析を行った。また,盲腸内の低級脂肪酸を定量し,管腔内に生産される脂肪酸とタンパク質の発現変化との関連を解析した。その結果,Carbonic anhydrase I,Peroxiredoxin,Selenium binding protein,Chaperonin 60,Lamin A等々に有意な発現変化が観察された。また,腸内細菌により管腔内に生産された脂肪酸のうち,イソ吉草酸と関連において強い相関を示すタンパク質の存在が確認された。これらのことは,難消化性デンプンが下部消化管において,腸内細菌により資化され,生産された脂肪酸が宿主のタンパク質発現に影響を及ぼしていることを示すものである。これらのことが,生活習慣病防御の面で有効に働くかどうかについて,現在検討中である。
【新奇AGE(メイラード反応後期段階生成物)の同定】
 グリセルアルデヒドとタンパク質のアルギニン残基が反応し,イミダゾロン型AGEであるアルグピリミジンが生成することを明らかにし,トリオースイソメラーゼ欠損症のような病気でアルグピリミジンがグリセルアルデヒドを介して生成する可能性を見出した。
【食品開発の基盤(食品構造の制御=食感の制御=おいしい食品開発の基盤】
 食感制御に用いられる食品素材に澱粉とタンパク質がある。今年度も化学薬品を使用しないで,鶏卵のタンパク質(卵白)と加熱処理を組み合わせた澱粉の加工法を検討した。澱粉に乳化能を付与し,加熱糊化時の澱粉粒膨潤を抑制することができた。
研究者 所属 氏名
  農学部 教授 早瀬文孝
  農学部 教授 杉山民二
  農学部 教授 桑田茂
  農学部 助教授 竹中麻子
  農学部 助教授 中村卓
  農学部 助教授 川端博秋
  農学部 助教授 渡辺寛人
    客員研究員 臼井照幸
研究期間 2004.4~2009.3
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