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第13週「女房は掃きだめから拾え?」振り返りコメント

現在の展示は6月29日まで、7月1日から一部展示替えとなります 現在の展示は6月29日まで、7月1日から一部展示替えとなります

 
2024.6
第13週女房は掃きだめから拾え?振り返って
 
明治大学法学部教授、大学史資料センター所長/図書館長
村上 一博
 
 4月から始まった「虎に翼」ですが、早くも折り返し点を迎えました。
 寅子は「特例判事補」となり、家庭裁判所で審判を担当できるようになりました(判事補は原則的に単独で審判を行うことはできません)。「特例判事補」とは、一般的には聞きなれない言葉だと思いますが、裁判官の人員不足を補うために、昭和23年7月12日の「判事補の職権の特例等に関する法律」(法律第146号)によって生まれた制度です。実質上判事にふさわしい十分な力量と経驗をもった判事補の中から、最高裁判所が指名しました(当初は「当分の間」だけ実施する筈だったのですが、なんと現在でも行われています)。実際の三淵さんは、家庭裁判所を離れて名古屋地方裁判所の判事に昇進しましたから、「特例判事補」にはなっていないのですが、ドラマの進行上、寅子が家庭裁判所で審判(判事の職権です)を担当するには、「特例判事補」になる必要があり、制度解釈上も無理がない(弁護士試補として1年半の実務修習を終えて弁護士となり、さらに判事補としての実績もあること)と考えました。

そこに舞い込んできたのが、大庭徹男の遺産相続問題でしたね。第13週は、梅子(平岩紙さん)の鬼気迫る名演技に圧倒される週となりました。
亡徹男の妾であった元山すみれが家庭裁判所に検認を求めにやってきた徹男の遺言書は、「危急時遺言」でした。通常の遺言書であれば、徹男が(弁護士でしたから書式には精通していたでしょうから)自署押印するだけでよかったのですが・・・病床で生命の危険が差し迫っていて自署できない状況にあった場合には、3人以上の証人の前で、証人の一人が徹男の口述を書面化し、それを本人と証人たちに読み聞かせて内容を確認したうえで、証人全員の署名押印が必要でした。

 遺言書は、妾のすみれに全財産を遺贈するという衝撃的な内容でした。梅子が、当時の民法では、妻(配偶者)と子(直系卑属)が財産の半分を遺留分として請求できるということに気づき、遺言書通りの執行を求めるすみれと、徹男の親族間で、一悶着おきました。この調停シーンでは撮影現場に立ち会っていたのですが、姑の常(鷲尾真知子さん)の「そんな馬鹿な遺言がありますか?!」という一喝には、空気を凍らせるような凄味がありました。結局は、証人偽装が明るみに出て、遺言書は無効となり、これで一件落着かと思いきや、「本当の波乱」はここから・・・梅子と3人の子供たちは遺産配分をめぐって泥仕合になったのです。民法では、妻の相続分は3分の1(昭和55年から2分の1に改正されました)、残る3分の2を子供たちが均分するという規定でしたが、親族間の協議が整えば、法定相続分にこだわる必要はなく、誰か一人が全財産を一括相続しても差し支えありませんでした。親族協議では折り合いがつかず、家庭裁判所で調停が行わることになりましたが、ここでも、長男の徹太が、戦前の「家」制度の家督相続の意識から、全財産の相続を主張していましたね。

 思い返すと、梅子が女子部で法律を学ぼうとした目的は、子供たちを正しく育てるために、離婚して親権を手に入れることでしたが、長男徹太は夫と瓜二つの傲慢な性格、次男徹次は戦争で負傷したことから性格が歪んでしまい、真っ当(お人好しすぎるとはいえ)なのは三男光三郎だけという状況でした。調停で光三郎が見せた母親思いに心を震わせた梅子でしたが・・・。なんと、こともあろうに、心の支えであった光三郎と夫の妾であったすみれが恋仲になり・・・ついに梅子の心の糸が切れてしまいました。

 台本では「(天を仰いで笑い)・・・ああ~」と書かれているだけなのですが、梅子の突然の高笑い、鬼気迫る圧巻の演技が生まれました。「もう駄目、降参。白旗を振るわ。」「私は全部失敗した。結婚も家族の作り方も、息子たちの育て方も、妻や嫁としての生き方も全部!」(「せめて光三郎だけは・・・そう歯を食いしばってきた。ちょっとでも良い母親だと、そう自分を思いたくて、少しでもあなたたちに愛されたくて」・・・この部分はカットされています)「私は全てを放棄します。相続分の遺産も、大庭家の嫁も、あなた達の母としての務めも!」「ぜ~んぶ捨てて、私はここから出ていきます。」
 涙をぬぐい、襖を開け放ち、「ごきげんよう!」と言い放って毅然と去っていく梅子、確かにカッコ良かったのですが・・・その絶望感、悲しみの深さに言葉を失いました。このシーンの撮影現場に立ち会えなかったのが残念でなりません。橋本万葉さんの演出もよかったに違いないのですが、平岩紙さんの演技はとにかく凄かった。脱帽です。
 
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