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第22週「女房に惚れてお家繁盛?」振り返りコメント

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2024.8
第22週「女房に惚れてお家繁盛?」を振り返って
 
明治大学法学部教授、大学史資料センター所長/図書館長
村上 一博

 昭和31(1956)年春、航一の娘のどかは、明律大学に入学して、寅子の後輩になりました。明治大学専門部女子部は、明治女子専門学校(昭和19年)を経て、昭和25年からは明治大学短期大学部と改称されています。のどかは、この短期大学部に入学したのでしょうか、それとも4年制学部に入学したのでしょうか。ドラマでは、学部についても何も語られていません。のどかは芸術仲間と一緒に毎日夜遊びしていますから、法学部ではなく、文学部(文学科)なのかも知れませんね。
 
 さて、昭和31年現在、全国で、女性の裁判官任官者は12名、検事任官者は3名、司法試験合格者は75名と、女性法曹の数は確実に増えてはきたのですが、女性法曹の働く環境はまだまだ整えられてはおらず、そんななか、東京地裁判事補の秋山真理子が、懐妊した悩みを寅子に打ち明けました。「私はひとの五倍頑張って・・・やっと、少しずつ仕事で認められるようになったのに・・・自分で切り開いた道を、自分で閉ざさなきゃいけない・・・」と。寅子はかつて秋山と同じ立場にあった自分を想い出します。出産して子育てが一段落したら仕事に戻れば良いと、穂高や雲野らは言ったけれど、空白期間が長ければ長いほど、法曹としての遅れを取り戻すのは至難の業で、その間に同期はどんどんキャリアを重ねていく、その苛立ちと焦りに藻掻いていた自分を、秋山と重ね合わせたのです。昭和31年当時、出産する女性に認められていたのは出産前後6週間ずつの休業だけでしたから、寅子は『育児期間の勤務時間短縮に向けての提案書』と『育児のための長期休暇取得の提案書』を最高裁事務総局に提出しようと試みます。実際に、育児休業に関する法律ができるのは、35年後の、平成3(1991)年のことですから、桂場が言うように、確かに「時期尚早」だったかもしれません。実際に三淵嘉子さんが、こうした要望を取り纏めていた事実はありませんが、ドラマでは、寅子が女性法曹の道を、通りやすく平坦で快適なものにするために、『女性法曹の社会進出拡大を求める意見書』への署名集めに奮闘する姿を描いています。
 
 先週第21週の振り返りコメントで触れなかったのですが、寅子と航一が「夫婦のようなもの」になるために取り交わした「遺言書」の内容について、何人かの方から質問を受けましたので、ここで少し説明しておきます。「遺言書」は映像では一部分しか映りませんでしたが、寅子の「遺言書」には、
 
「私、佐田寅子は、星航一と内縁関係にあり、星航一の事実上の妻であることをここに宣言する。
同居するにあたっては、その[等分の義務](この部分については私も正確な文言を知りません)を負担することとする。
私が死亡した場合は、その事実上の夫である星航一に三分の一、義姉である猪爪花江に同じく三分の一、残りを、子である佐田優未、航一の子である星朋一およびのどか、親族である猪爪直明に等分に遺贈し又は相続させる。
私、佐田寅子は、この遺言書の写しを星航一と取り交わす。
                       昭和三十年八月二十八日  佐 田 寅 子 ㊞」

と書かれており、航一の「遺言書」は、
 
「私、星航一は、佐田寅子と内縁関係にあり、佐田寅子の事実上の夫であることをここに宣言する。
同居するにあたっては、その[等分の義務]を負担することとする。
私が死亡した場合は、その事実上の妻である佐田寅子に三分の一、残りを、子である星朋一およびのどか、佐田寅子の子である佐田優未に等分に遺贈し又は相続させる。
私、星航一は、この遺言書の写しを佐田寅子と取り交わす。
                       昭和三十年八月二十八日  星  航 一 ㊞」
というものでした。

 寅子は、花江に三分の一を遺贈しようと考えていたのです。娘の優未には、弟の直明と同じ十二分の一だけです。寅子と航一は法律上の夫婦ではありません。したがって、寅子の法定相続人は優未ただ一人ですから、寅子のすべての遺産を相続できる筈であり、航一の子である朋一とのどかは航一の遺産の二分の一ずつを相続する権利があります。彼らは遺留分を主張することが可能なのです。ドラマでは、何の説明もなく、スルーしていましたが、実際の執行にあたっては、紛糾する事態も予想されます。ドラマで、もう少し説明すべきだったのかもしれませんね。
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