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第24週「女三人あれば身代が潰れる?」振り返りコメント

今週の放送から登場した笹竹のお品書き。現在、当館では「甘味のお品書き」の面を展示していますが、反対面は「寿司のお品書き」になっています。 今週の放送から登場した笹竹のお品書き。現在、当館では「甘味のお品書き」の面を展示していますが、反対面は「寿司のお品書き」になっています。

 
2024.9
第24週「女三人あれば身代が潰れる振り返って
 
明治大学法学部教授、大学史資料センター所長/図書館長
村上 一博

 桂場が、ついに、第5代最高裁長官に就任しました。昭和44年1月のことでした。「笹竹」(梅子の「竹もと」と道男の「笹寿司」が合併)で、多岐川の快気祝いもかねて、団子で、お祝いの会がもたれましたが・・・桂場は終始浮かない顔でしたね。
 
 戦後、家庭裁判所が発足してから20年、日本は高度経済成長を遂げて社会は大きく変化しました。学生運動が、砂川事件から日米新安保条約締結反対=「60年安保闘争」へと発展、次いで、ベトナム戦争への日本の加担、日米安保条約の更新反対を理由に、「70年安保闘争」と過激化していきました。東大では、安田講堂が医学部学生らによって占拠され、機動隊員による強制的解除により、抵抗した数百人の若者が逮捕されました。暴徒化する若者たちに対する不安は、社会の中で大きくなっていき、政府からは、こうした混乱を収拾するには少年事件の厳罰化と少年法改正が必要だという意見が強く打ち出され、昭和45年6月、法務大臣から少年法改正について法制審議会に諮問がなされました。こうしたドラマの展開は、おおむね史実通りです。
 
 死期が近い多岐川のもとに、稲垣と小橋が馳せ参じ(稲垣は岡山家裁所長、小橋は鹿児島家裁所長になっていました・・・実は、小橋はヒラ判事だったはずで、脚本では、多岐川に抱きしめられた際に、「俺はヒラ判事ですって」と呟くはずだったのですが、演出の梛川さんが呟きをカットして所長にしてくれたのでしょう。小橋くん、良かったね、おめでとう)、多岐川を中心に、「愛の裁判所」としての家裁の理想を守ろうと、少年法改正に抗議する意見書を取り纏めました。[一部の凶悪事件を除き、彼らの犯罪は深い悪性に根差したものではない]「・・・刑罰を科して、執行猶予を付けておしまいではなく、保護処分により、家裁の人間と己と向き合い、心身の調和をはかるほうが適切で、再犯を防げる場合が極めて多い・・・[少年非行は社会の病理現象で、社会の在り方に深く根差している。社会全体の協力の下に幅の広い総合的対策を講ぜられることを]非行少年の更生のため、愛を持って実務に携わる我々は強く望む!」。多岐川は、最期の力を振り絞ってこの抗議文を纏めあげ、死去したのでした。「頼んだからな、桂場っ!」と幻想の多岐川。桂場は、孤独と重責に押し潰されそうになりながら・・・その表情は暗く険しかったですね。桂場は、最高裁長官として、どのように対応するのでしょうか。次週をお楽しみに。
 
 桂場の苦悩は、少年法厳罰化の問題だけではありませんでした。公害訴訟も全国で多発しており、300件近い損害賠償裁判が行われていました。航一は最高裁調査官として、長官の桂場と、対応を検討しています。桂場は言います。公害被害者は速やかに救済しなければならない。状況によって因果関係が認められれば、推論として被告企業に責任があると判断し、企業側が不服であれば自ら「過失がないこと」を立証するよう求めればよい、と。いわゆる「立証責任の転嫁」を打ち出したのです。これにより、膠着していた公害訴訟は大きく原告勝訴へと前進することとなりました(公害裁判については、数行で説明することはできませんので、この程度にしておきます)。
 
 轟とよねが、斧ヶ岳美位子(石橋菜津美さん)の父親殺害事件の弁護をすることになりました。昭和44年6月の東京地裁での第一審判決では、刑法第200条の尊属殺重罰規定は憲法14条違反であるとの判断が示され、刑法第199条(一般殺人罪の規定)が適用されて、美位子による父親殺害は、正当防衛の範囲を超えて過剰防衛ではあるが、情状酌量により刑が免除されました(検察はすぐさま控訴)。轟とよねは、はたして、19年前の穂高の無念を晴らすことができたでしょうか。今後の放送で、最高裁大法廷で判決が言い渡されます。
 
 娘の薫が安田講堂占拠で逮捕されたことから、香淑が司法試験に合格して弁護士資格を取得していたことが明らかになりました(脚本では、事前に、香淑の司法試験合格について伝える場面が用意されていたのですが、時間的余裕がなくカットされたようです。女子部同窓生5人で残るは、涼子様。彼女が司法試験を受けているのかどうか気になりますね)。
 
 寅子の娘優未は、大学院で寄生虫の研究をしていたようです。ちなみに三淵嘉子さんの息子和田芳武さんが寄生虫学者で、東大医科学研究所寄生虫研究部の技官でした。台本では、のどかの脳内映像が予定されていて、腹痛を治す職業に就きたいというところから優未は寄生虫の研究に入ったという説明があったのですが・・・この部分もカットされてしまいました。その優未が博士課程を中退すると言い出しましたね。卒業後定職に就ける見込みがないことが主な理由でした。航一は、とりあえず博士課程を修了するよう説得しようとしたのですが、寅子は航一を遮って、「どの道を、どの地獄を進むか諦めるかは優未の自由」だと言い、かつて明律大学女子部への進学について、神田の法律書専門店で、母親はるからされたように、優未の両肩に手を置いて、まっすぐに目を見て「あなたの選んだ地獄を進む覚悟はあるのね?」と語りかけたのでした(私ははるさん推しなので、はるさんの場面の方が格段に良かったと言うのが私の印象ですが・・・どうでしょう)。
 
 最後にもう一つ。安田講堂で逮捕起訴された学生たち(20歳以上)の刑事裁判では、傍聴席に学生たちが押し寄せ、裁判官に対して暴言を繰り返し、「インターナショナル」を大声で歌うなど、異様な状態の法廷がしばらく続きました。「インターナショナル」という歌、知っていますか? 私は安保闘争の世代より一回り下なので、歌った経験はないのですが、歌詞はおぼろげながら知っています。NHKスタジオでも、歌詞カードが用意してあって、私も一部もらってきました。個人的には、前代未聞の大荒れの法廷シーンは、もう少し時間を割いてほしかったなと思っています。
 
【補足】
NHK総合テレビの9月18日(水) 19:57~20:42に、「虎に翼×米津玄師スペシャル」が放送されます。明律大学女子部の同窓生5人の座談会もあるようです。お楽しみください。
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