過去の展覧会 2018年

ウィリアム・ガウランドと日本の古墳研究

2018年度明治大学博物館特別展
ウィリアム・ガウランドと日本の古墳研究
(1)実施形態
主 催 明治大学博物館
協 力 日英共同調査グループ・Gowland Project
後 援 朝日新聞社
助 成 芸術文化振興基金
会 期 2018年10月13日(土)~12月2日(日) 51日間(会期中無休)
※11月17日(土)は19:00 まで臨時に開館延長
会 場 アカデミーコモン地下1 階 博物館特別展示室
入場料 ¥300
入場者数 4,754名
企画構成 忽那敬三(考古部門学芸員)

(2)趣旨
 明治期のいわゆる「お雇い外国人」の一人であった英国人技師・ウィリアム・ガウランド(William Gowland,1842-1922)は,本務の傍らで日本の古墳研究を手掛けたことで知られ,彼が収集したコレクションはロンドンの大英博物館で展示されている。2008 年,当館は後藤和雄氏(元朝日新聞編集委員)よりガウランドが撮影した当時の日本の古墳の姿を収めた希少な写真(複製,大英博物館所蔵)約200 点の寄託を受けた。以来,日英の研究者による研究プロジェクトに参加し,大英博物館収蔵の関連資料の調査を行うほか,国内機関と大英博物館との橋渡し役を務めるなど,日本におけるガウランド研究の拠点となっている。
 このたび,これまでの当館の実績が評価され,大英博物館から15 点の資料を借用することが可能となった。今回の展示では,大英博物館と日英共同調査グループ・Gowland Project の協力を得て,当館と同プロジェクトによるこれまでの調査・研究の成果をもとに,ガウランドが行った日本の古墳研究の実像について紹介する。

(3)展示構成
(1) ウィリアム・ガウランドとは
 ウィリアム・ガウランドの生い立ちから来日,帰国後の動向など年譜をもとに彼の生涯をパネルで概説した。
(2) 造幣局での業績
 ガウランドの本務である造幣局での事績について紹介した。大英博物館所蔵の貴重な造幣局創設期の写真の紙焼き資料や,同時期に鋳造された銅貨,創業当時の造幣局の図など造幣博物館所蔵資料などから,外国人技師のなかで次第に中心的な立場となり,日本の金属加工技術の近代化に果たした貢献について述べた。
(3) 登山
 ガウランドが日本で最もよく知られているのが登山の分野である。「日本アルプス」の命名者であり,明治期の外国人登山者として先駆者的な存在であった。彼自身は登山についての著作をほとんど残していないが,初めて「日本アルプス」という名称が使用されたアーネスト・サトウ,A.G.S. ホーズ著『中部・北部日本案内』初版本や,岐阜県高山市に残る登山記録文書を用いて登山の業績について紹介した。
(4) 日本絵画の収集
 ガウランドは日本絵画の収集にも多くの時間と財力を注ぎ,数百点のコレクションを有していた。大阪や帰国後のロンドンで展示会を開催したほか,研究論文も発表しており,明治期の日本絵画研究者としての顔も持っていた。大英博物館には彼が寄贈した約100 点のコレクションが収蔵されているほか,泉屋博古館蔵『某氏所蔵品入札目録』(大正7 年5 月)から,大正期に日本国内で売却されたコレクションの内容が判明している。展示では,後者の原本を出展した。
(5) 古墳研究の道へ
 イギリスの外交官・アーネスト・サトウとジョージ・アストンの影響によって古墳研究を始め,詳細な図面による記録と写真を用いた近代的な調査を行うなど,ガウランドの先進的な研究の様子を紹介した。出展した大英博物館所蔵のコナベ古墳の測量図と石棺一覧表は,彼の精緻な研究を如実に物語る資料である。
(6) 鹿谷古墳群の調査
 ガウランド・コレクションの中核をなす鹿谷古墳群について紹介した。鹿谷古墳群はガウランドが古墳研究を始めたころに訪れた古墳群であり,発掘調査は行わなかったが,出土品を購入しているほか,出土古墳に至る現地までの行程図や行政機関が作成した中央機関への経緯報告の文書の写しを入手し,また現地で撮影を行うなど多くの記録が残っている。出土品のうち,大英博物館蔵の須恵器台付子持壺を出展したほか,馬具のレプリカ類を展示した。また,同館蔵の古墳の分布図について,初めて京都国立博物館蔵の下書きの図と並べて展示を行った。石室の写真もあわせて展示し,考古資料・図・写真により彼が手掛けた同古墳群の詳細な調査研究の様子を示した。
(7) 「天皇陵」古墳への関心
 ガウランドは大阪が拠点であったこともあり,大阪・奈良に多く存在する巨大な前方後円墳に強い興味を持ち,文献も加えながら「天皇陵」とされる古墳の研究を熱心に行った。これまで,彼が撮影した仁徳天皇陵古墳や応神天皇陵古墳の写真によって彼の研究が説明されることが多かったが,今回は彼がロンドンでの学会発表時に使用したと考えられる全長5 mにも及ぶ奈良県五条野丸山古墳の巨大な図を大英博物館から借用して展示した。彼の前方後円墳や「天皇陵」古墳に対する関心の高さを実感できる資料である。
(8) 芝山古墳の発掘
 芝山古墳はガウランドが唯一発掘調査を実施した古墳である。日本で初めて区画区分法を用いて精密な発掘調査を行った古墳として知られ,日本考古学研究史のうえでも重要な調査である。その区画区分法による出土遺物を記録した図面のほか,出土須恵器と石室の大型図面を大英博物館から借用して出展した。また,展示室前のロビーに実際の石室の2/3 の大きさ(長さ約4 m)で図面の記載内容を再現し,導入展示として来場者にインパクトを与える効果を狙った。展示室外に設置したため,特別展目的以外の来館者にも高い訴求力があった。
(9) 横穴式石室の調査と研究
 ガウランドの研究の中心は,ヨーロッパにもみられる石で築いた部屋状の埋葬施設を持つ古墳であり,図面や写真など多くの調査記録を残している。当館寄託資料である写真資料や,福岡県綾塚古墳の図面,初期のガウランド研究で取り上げられた島根県上塩冶築山古墳の図面(いずれも大英博物館蔵)などから,横穴式石室に対する彼の関心の高さを浮き彫りにした。
 あわせて,展示室内に近年のGowland Project による写真測量データを用いて実物大の石室と石棺を再現した。費用の関係で石室内部の壁面は平面的な表現にとどまったが,石棺は立体的に造形し,石室と石棺の大きさを体感できる展示となった。同時に,同データを使った石室の3 次元動画についても展示室内で上映したが,それほど古墳に興味を持っていなかった一般来場者も高い関心を寄せ,大きな反響があった。
(10) 考古遺物の収集と研究
 ガウランドは古墳だけではなく考古資料にも高い関心を寄せ,古墳の出土資料を厳密に検討して年代を推測した。図書寮博物館(現東京国立博物館)で調査を行うとともに,自らも須恵器等を数多く購入しており,それらがガウランド・コレクションとして大英博物館に収蔵されている。写真や図面をパネルで紹介したほか,今回は大英博物館で長らく常設出展されていた伝上野国出土の装飾付台付広口壺の借用と展示が実現した。また今回の展示にあわせて制作した伝武蔵国女子埴輪と伝備前国装飾付脚付壺のレプリカは,代表的なガウランド・コレクションの資料を来館者に印象付けることができた。
 また,体験コーナーを設置しレプリカ制作時に使用した3 D プリンタによる元型を着色して「触る」ことが可能な展示もあわせて行った。本来は廃棄される元型を有効に活用した。
 (11) 外国人研究者との交流
 ガウランドに影響を与えた外国人研究者について紹介し,彼らがガウランドの研究に与えた影響を述べた。サトウとナウマンについては大英博物館所蔵の直筆書簡を展示し,アストンとヒッチコック,マンローについては本学図書館所蔵の文献を出展した。
 
(4)展示資料の概要
出展総数 71 点(うち大英博物館からの出展品15 点・館蔵品5 点・当館寄託写真データ8 点)
出展機関 大英博物館 造幣博物館 飛騨高山まちの博物館 立教大学図書館 泉屋博古館 京都国立博物館 明治大学図書館

(5)関連イベント
(1)開催記念講演会
タイトル 大英博物館とガウランド・コレクション
講  師 サイモン・ケイナー セインズベリー日本藝術研究所統括役所長
日  時 2018年10月26日(金)13:30~15:00
会  場 明治大学グローバルフロント2F 4021教室
参加者 50名
 
(2)博物館公開講座「考古学ゼミナール」 ※リバティアカデミーで開講
タイトル 第63回考古学ゼミナール「ウィリアム・ガウランドと日本の古墳研究- 大英博物館に残された“学術の遺産”」
講  師 忽那敬三,諫早直人(京都府立大学),富山直人(神戸市立図書館,以上Gowland Project 日本メンバー),一瀬和夫(京都橘大学,Gowland Project 日本リーダー)
日  時 全4回,2018年10月26日,11月9日,11月16日,11月30日,いずれも金曜,18:00 ~ 20:00
受 講 料 5,000円
会  場 明治大学アカデミーコモン8階 308E教室
受講登録者 69名
 
(3)関連遺跡見学会 ※博物館友の会主催
タイトル
「ウィリアム・ガウランドの足跡を畿内にたどる」
日  時 2018年11月20日(水)~21日(木)
同行講師 忽那敬三(考古部門学芸員)
現地講師 土井孝則氏(亀岡市教育委員会文化財係長),橘泉氏(堺市博物館学芸員)ほか
参加者 40名
 
(4)ギャラリートーク
2018年10月13日(土),10月28日(日※ホームカミングデー,2回開催),11月3日(土・祝日),11月17日(土),11月30日(金),12月1日(土※ 3 回開催),12月2日(日)
 
(5)子どもワークシート
小学生を対象に希望者にワークシートを配布し展示内容の理解を支援した。参加賞や全問正解賞としてミュージアムショップの博物館グッズを活用した。
 
(6)関連展示 明大コレクション41 ガウランド研究の歩み—大塚初重氏の調査資料から—
2018年9月27日~12月10日(75日間)の期間,常設展示室の展示ケースで開催。大塚初重(本学名誉教授)氏寄贈のガウランド資料の実測図面と,1967年当時の大英博物館の展示状況の写真などから研究と歩みを紹介。

(6)成果
・ウィリアム・ガウランドを主題とした展覧会としては,国内では初めて大英博物館所蔵資料の出展が実現した。
・今回借用した大英博物館所蔵資料15 点は,いずれも日本国内で初めて出展されたものである。また,このうち紙焼資料・図面資料・須恵器蓋坏は大英博物館でも大正期以降は一般に公開されていなかったものである。紙焼・図面資料には,今回が初公開となるものも含まれている。図録に掲載した写真も初公開の資料が多数あり,今後の研究にとって重要である。
・大英博物館が当館級の小規模館園に資料を出展することは極めて異例である。また当館が展示施設としてイギリスの厳しい貸し出し基準をクリアした点は,当館の展示施設及び機関としての対外的な評価を高めたといえる。
・考古学以外の業績についても紹介したことで,造幣,山岳,日本美術,明治期の日本と海外の交流史など様々な分野の研究者や関心を持つ一般の来場者があり,多方面にわたって研究成果が共有される貴重な機会となった。
・展覧会図録は大英博物館とイギリス・セインズベリー日本藝術研究所に所蔵され,今後にわたって研究資料として活用される。
・有料入場者が全体の36%という高い割合を占め,学外からの来場者が多かったことを示している。石室の復元や3次元画像,触る展示やワークシート等により,古墳への関心が薄い層や幅広い年齢層に訴求することができた。
・レプリカ2 点は,今後にわたって日本国内での研究や展示への活用をはかることができるという点で,大きな意義をもつといえる。