過去の展覧会 2016年

再葬墓と甕棺墓—弥生の墓の東西—

再葬墓と甕棺墓
(1)実施形態
主 催 明治大学博物館
会 期 2016年10月22日(土)~12月18日(日)58日間(会期中無休)
会 場 明治大学博物館特別展示室
入場料 無料
入場者数 5,887名
企画構成 忽那敬三(考古部門学芸員)

(2)趣旨
 日本列島に米づくりが伝わった弥生時代(紀元前800 年頃~紀元後250 年頃)は,金属器の使用,「王」の出現など,社会に大きな変化が起こった時代であった。当時の墓には,人々の遺体だけではなく,副葬品や棺,墳丘などの構築物が残され,亡くなった人物の集団における立場や,所属した集団の習俗などを知ることができる。弥生時代には多様な墓がつくられたが,なかでも東日本の再葬墓と九州の甕棺墓は,際立った存在である。再葬墓は,遺体を骨化させた後に一部の骨を土器に入れて葬ったもので,甕棺墓は,専用の巨大な土器で埋葬した墓をさす。また,王墓級の甕棺墓などから出土する中国製の青銅鏡は,階層性の存在や年代を知る手がかりとなる。今回の展示では,当館が収蔵する関東の代表的な再葬墓資料と比較資料として収集した九州の甕棺墓と弥生時代並行期の中国鏡コレクションを一堂に展示し,明治大学が考古学専攻創設前後から取り組んできた弥生時代の墓制と鏡の研究のあゆみ,そして東西の墓制の違いとその特徴,鏡からみた弥生時代の年代について紹介することを目的とした。
 なお,本企画展は当初予定されていた特別展が中止となったため,代替として企画・開催されたものである。
正式に開催が決定したのが2016 年7 月であり,準備期間に限りがあったため館蔵品展とした。


(3)展示構成
(1) 弥生時代の墓
 弥生時代の墓制について,石,木,土器などさまざまな棺の種類と,それを納めた墳丘墓や周溝墓などの施設を概観し,再葬墓と甕棺墓の特殊性をパネルで解説した。なお,展示室入口正面には高さ3.2 m,横幅2.7mの大型パネルを設置し,展示趣旨とともに代表的な出展資料やその調査写真を配し,冒頭で全体像のイメージを提示した。特に,桜馬場遺跡第1 号甕棺はパネルの大きさを生かし,約1 mの実物大として観覧者自身と比較ができるようにした。
(2) 明治大学の弥生墓制研究
 杉原荘介氏による戦前・戦後の研究から始まり,現在まで続く再葬墓研究を中心に,九州の甕棺墓,北陸の台状墓など,文学部考古学専攻が手掛けてきた弥生墓制の研究を概説した。
(3) 東日本の再葬墓
 亡くなった人の遺体を地中に埋めるなどして骨のみの状態とし,再度埋葬する墓を再葬墓と呼ぶ。弥生時代になると,骨を土器の中に納めるタイプの再葬墓が主流となり,前期から中期まで,宮城県~愛知県にかけて約100ヶ所の遺跡が知られるなど再葬墓の概要と,明治大学が千葉県岩名天神前遺跡をはじめとして再葬墓研究を継続的に行ってきたことを紹介した。
 展示では,代表的な調査事例として知られる茨城県殿内遺跡,群馬県岩櫃山遺跡,千葉県岩名天神前遺跡の概要を紹介するとともに,再葬墓出土土器44 点を出展した。このうち,殿内・岩名天神前両遺跡の土器全点が展示されたのは半世紀前の発掘調査以来初めてのことである。他館へ長期貸し出ししている資料も約40 年ぶりの里帰りを果たし,一堂に資料を観察できる貴重な機会となった。出展に際し,破損していた資料の修復や集合写真の撮影が実施され,資料の整理保存や外部への貸し出しが可能な写真資料の充実をはかることができた点は,展示による成果のひとつであり,大きな意義がある。また,土器だけでなく再葬墓では数少ない玉類などの副葬品や,出土人骨についてもコーナーを設けて紹介した。さらに,岩名天神前遺跡第2 号墓壙の実物大模型を制作し,遺構の大きさが実感できるよう配慮した。模型や今回撮影した土器の写真については,すでに外部団体から借用や使用の依頼が来ており,活用が図られている。
(4) 甕棺墓とは何か
 土器を棺に使用する墓のうち,北部九州に多い特製の大型専用棺を用いる甕棺墓について,分布の特徴と時期的変遷,また大量の副葬品をもつ上位階層の被葬者が存在するという特徴を概説した。加えて,出展した佐賀県桜馬場遺跡の甕棺は,明治大学が甕棺墓の調査に赴いた際に出土したもので,杉原荘介氏が弥生墓制を列島的な視点で考えていたことがわかる。
 甕棺は桜馬場遺跡の調査時に出土した3 点と伝熊本県出土の寄贈資料1 点の計4 点を展示した。桜馬場遺跡第1 号甕棺は旧考古学陳列館に常設展示されていたが,近年は出展する機会が少なかった。主要な甕棺4 点が同時に展示されたのは,陳列館時代を含めて初めてのことである。桜馬場遺跡第2 号甕棺下甕は,今回の展示に合わせて修復を行った。また,甕棺の副葬品として,桜馬場遺跡出土銅釧のレプリカと第2 号甕棺内出土のガラス管玉,参考資料として巴形銅器のレプリカを展示し,再葬墓よりも豪華な副葬品のあり方を紹介した。
(5) 弥生時代並行期の中国鏡
 中国製の青銅鏡は,権威の象徴として上位階層の弥生の墓や古墳に副葬品として好んで用いられた。弥生時代並行期の鏡は,紀元前8 世紀~紀元後3 世紀頃のものが相当し,弥生時代中期・後期の北部九州には150 面以上の中国鏡が集中する。特に王墓級の甕棺では複数の鏡が副葬される。中国鏡は漢代の鏡をはじめ製作年代の推定が可能なものがあり,階層性や大陸との交渉だけではなく,遺跡または弥生時代そのものの年代を考える上でも鍵となる。
 展示では,当館が所蔵する中国鏡コレクションのうち,当該期の33 点について時期ごとに斜めの壁状ボードに固定して提示する方法を採った。このことで,時期ごとの鏡種の特徴を理解できるとともに,間近で観察することを可能にした。さらに,古墳時代の鏡として著名な三角縁神獣鏡のコーナーを最後に設け,中国鏡の系譜上に連なる鏡であることを視覚的に理解できるよう工夫した。

(4)展示資料の概要
出展数 館蔵資料152 点(うち,市立市川考古博物館に長期貸し出し中で一時的に戻したもの7 点)

(5)関連イベント
ギャラリートーク 11 月5 日(土)参加者25 名,12 月3 日(土)参加者26 名
※出土した甕棺の破片や,復元制作した再葬墓土器のハンズオンもあわせて実施した。