過去の展覧会 2019年

見えているのに見えていない!立体錯視の最前線

特別展
見えているのに見えていない!立体錯視の最前線
(1)実施形態
主 催 明治大学
企 画
明治大学先端数理科学インスティテュート(MIMS) 私立大学研究ブランディング事業「数理科学する明治大学」錯視学研究チーム 明治大学博物館
会 期 2019年7月13日(土)~9月8日(日) 50日間(8月10~16日、18日休館)
会 場 アカデミーコモンB1 博物館特別展示室
入場料 無料
入場者数 22,003名
担 当 者 杉原厚吉(MIMS研究特別教授) 山口智彦(MIMS特任教授・私立大学研究ブランディング事業「数理科学する明治大学」代表) 外山 徹(博物館学芸員)

(2)趣旨
 2016年度に採択された私立大学研究ブランディング事業「数理科学する明治大学」は、本学の対外的なブランド・イメージ構築に向けての全学的な取り組みとして推進すべき課題である。その研究成果を学内共同利用機関である博物館の特別展示室から社会に向けて発信する。年間10万人が訪れる博物館における成果の公開は効果的な社会還元の方策と言える。
 ブランディング事業の参画組織である先端数理科学インスティテュート(MIMS)は、社会及び自然にかかわる現象の数理的解析を課題とする国際的研究拠点として、本学の研究・知財戦略機構に設置された。そこでは、実社会とのかかわりを重視した数理科学の発展・普及を図ることを目的とし、生命現象、地球環境、災害、医学、交通、金融など、様々な局面で発生する複雑現象を数理モデリングで表現し、シミュレーションで再現・解明する現象数理学を展開している。
 この特別展では、MIMSを構成する複数のプロジェクトの中でも、国内外のマスコミ等によって取り上げられるなど多くの社会的関心を集めていること、小学生から高齢者まで幅広い世代にわたって興味を喚起できることから「錯視現象」の解明に関わる研究成果を取り上げる。展示では、ただ不思議な体験を提供するだけではなく、錯視という身近で不思議な現象が具体的な数理モデルとして提示できること、それに基付いたシミュレーションによって新たな錯視の発見につながっていることを紹介する。この、MIMSが取り組む現象数理学の具体的な様相と研究プロセスの例示により、大学における研究活動が社会的意義を有する営みとしてあることを広く周知し、また、研究に取り組み深めることの魅力を在学生や受験生世代をはじめとする若年層にアピールしたい。

(3)展示構成
(1) “ありえない”はずの立体は実在した
 はじめに錯視研究の契機となったエピソードを紹介した。きっかけはロボットによる立体の認識の研究だった。“だまし絵”として描かれた実在しないはずの立体の絵をロボットがどう認識するか試してみたところ、何とロボットはそれを実在する立体として認識した。そして、ありえないと思われた立体は数理解析によって実際に制作が可能なことが判明したのである。すなわち、実在する立体が、人間の目の奥行を知覚する錯視によって、ありえない立体として見えるわけである。
(2) 錯視とはどういうことか?
 網膜に映る2次元の画像を3次元立体として知覚するには脳による視覚情報の補充を必要とする。そこに攪乱が起きている状態が錯視であり、錯視は本来的に脳の知覚機能に由来するのである。ここでは、錯視の基本的な事例として、遠近法的性質の錯視について、同じ長さの線に長短が感じられる、同じ形の2つの図像が異なった形・大きさに見える、という事例を挙げて説明した。
(3) 錯視を研究する社会的意義
 われわれの生活空間の中には視覚認識に錯誤を生ずるさまざまな危険が存在する。つまり、錯視のしくみを理解することは適切な生活環境の整備に資するのである。例えば、状況の誤認が原因となって起こる交通事故の防止、道路傾斜の誤認を原因とする交通渋滞の回避、誇大広告の規制などである。一方、錯視を利用することで効果的な視覚情報の伝達が実現する。標識類の視認性の向上や錯視を利用した新しいエンターテインメント手段の提供などが可能である。
(4) 錯視のしくみを解き明かす
 錯視現象は計算という手段によって再現・説明できる。立体を描いた2次元の絵に相当する実在の立体は計算上無限に存在する。直角のみを用いた立体の図に相当する直角以外で構成された立体を組み合わせると錯視が起きる。立体の設計は、立体を描いた2次元の絵(D)を実際に人の目に見えている図像に見立て、手前に絵を見る視点位置(O)を固定する。O から絵(D)に描かれた立体の“頂点”へ伸ばした半直線の先には実際の3次元立体(P)の頂点を想定できる。O から立体(P)の頂点までの距離を変数に取る。頂点ごとに変数を割り当て、頂点の3次元座標を表現することにより立体の数理モデルができあがる。
(5) 立体のイリュージョン
 これまでインスティテュートが開発してきた立体作品を一堂に紹介した。
〈だまし絵立体〉立体としては作れないように見えるだまし絵を実際に立体化したもの
〈不可能モーション立体〉ボールを置いたり、棒を差し込むとあり得ない動きに見える
〈変身立体〉直接見た姿と、それを鏡に映した姿がまったく違って見える立体
〈透身立体〉鏡に映すと一部が消えたように見える立体
〈トポロジー攪乱立体〉鏡に映すと複数の立体のつながり方が変わって見える立体
〈鏡映合成変身立体〉意味不明の立体を鏡の上に置くと形が見えてくる
〈高さ反転立体〉鏡に映すと高低が反転して見える立体
〈3方向多義立体〉三つの方向から見たとき、それぞれ違った形に見える立体
〈軟体立体〉向きを変えても元の形のままのように見える立体など
 
(4)展示資料の概要
 出展総数77点(うち先端数理科学インスティテュートから出展の錯視立体作品53点、同錯覚模型2点、博物館が制作した錯視立体作品8点、商品部門館蔵品13点、その他1点)

(5)関連イベント
(1)開催記念講演会(リバティアカデミー・オープン講座)
タイトル 見えているのに見えていない!立体錯視の最前線
講  師 杉原厚吉 明治大学研究・知財戦略機構研究特別教授
日  時 2019年7月27日(土) 14:00~15:30
会  場 明治大学グローバルフロント1F グローバルホール
参加者 124名
 
(2)ギャラリートーク
講  師 杉原厚吉 明治大学研究・知財戦略機構研究特別教授
日  時 (1)7月17日(水) (2)8月23日(金) ③9月5日(木) 何れも14:00~14:30
参加者数 (1)106名 (2)194名 (3)151名
 
(6)頒布物
(1)展示図録
監修者:杉原厚吉 執筆者:杉原厚吉 外山 徹
タイトル:『見えているのに見えていない!立体錯視の最前線』
刊行日:2019年7月13日 ページ数:64ページ 部数:1000部 頒価:¥1,000
(2)ミュージアムグッズの製作
・トートバッグ(だまし絵立体コレクション) 200個 頒価:¥700
・クリアファイル(めいじろうアナモルフォーズ+奥行きの錯視) 800 個 頒価:¥100
・クリアうちわ(めいじろう錯覚渦巻き) 800 個 頒価:¥200

(7)記録動画の制作
杉原厚吉研究特別教授による解説及び展示風景の映像、先端数理科学インスティテュート紹介のイメージ画像などで構成。 時間:14分11秒 ホームページ「明治大学博物館アーカイブ」にて2020年1月11日より公開

(8)成果
・2万人超の入場者に加え、「朝日」「毎日」「産経」の主要紙及び共同通信の配信によって地方紙にも記事が掲載され、本学の全学的取り組みである「私立大学研究ブランディング事業 数理科学する明治大学」を社会に周知、その成果を還元することができた。展示図録の窓口頒布、記録動画の公開によってさらなる成果拡張が見込まれる。
・これまでにも各地で展示の実績がある杉原研究特別教授の錯視立体作品だが、研究成果の公開という位置付けでの開催はなかなか実現していなかった。大学が開催する展覧会として、錯視現象がなぜ発生するのかという基礎的な理論、研究成果がどのような社会的要請に応え得るのか、錯視立体の設計にかかわる数式の立て方や具体的な数理モデルを提示することによって学術的な側面をアピールすることができた。
・第6回Best Illusion of The Year Contest(2010)優勝の「なんでも吸引4方向すべり台」をはじめ、8点の作品を大学予算で制作した。内、5 点は恒久的な素材を使用しており、作品のアーカイブとすることと、今後も展示や学内外への貸出など活用を図ることができるようになった。