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日本最古の大学沿革史『明治法律学校二十年史』(1901年)─『明治大学140年小史』のプロトタイプ─(施策編)

『明治大学百年史』(1986-1994年 全4巻) 『明治法律学校二十年史』(1901年。写真は1902年の再版) 同書の著者田能邨梅士(1868-1915)。中国法制史研究でも知られた。 『明治大学140年小史』(2021年)

 
2021.10
日本最古の大学沿革史『明治法律学校二十年史』(1901年)
─『明治大学140年小史』のプロトタイプ─
 
                        学術・社会連携部博物館事務室
大学史資料センター担当
村松玄太
 
 『〇〇町史』『◎◎株式会社100年史』などと背表紙に箔押しをおごり、クロス装上製、さらにガッチリした箱に収まった、分厚く立派な本──。図書館などでご覧になったことがあるのではないか。このような、自治体、企業、学校などで、その誕生(場合によっては前史)から現在までをまとめた歴史書のことを「沿革史」という。沿革史とは、およそその組織にとって節目にあたる年に企画、あるいは刊行されることが多い。いわゆる慶事を祝賀する記念品であり、しばしば豪華な本となる。
 大学にも沿革史がある。過去明治大学では『明治大学百年史』(全4巻・1986-1994年)という、総ページ数4000を優に超える大規模な沿革史を刊行している。これはまさに「背表紙に箔押しをおごり……」、以降繰り返さないが、大変贅沢なつくりの本だ。内容も充実していて、大学の歩みを細大漏らさず記録するため、総力を挙げて資料を収集し、執筆にあたった大著である。明治大学創立百周年事業の一環として企画・刊行された。同書の完結は1994年、創立100周年から13年後であった。準備を含めて実に20年近く時間をかけた。
 明治大学では、それ以前にも周年の節目に沿革史を刊行してきた。『明治大学百年史』に先立つこと40年以上前の1941(昭和16)年、『明治大学六十年史』が刊行されている。120ページあまりの本である。なりは『百年史』の40分の1と小さいが、大学沿革史の系譜を正しく引き継いでいる。さらにさかのぼる。1931(昭和6)年の『明治大学五十年史』(90ページ)、1911(明治44)年『明治大学史』(194ページ)と刊行が続く。
 そして1901(明治34)年、最初の明治大学沿革史である、『明治法律学校二十年史』(194ページ)にたどりつく。田能邨梅士という明治法律学校卒業生の新聞記者が全部1人で書いた。同書が明治大学沿革史のプロトタイプ(原型)といえる。
 同書は、明治大学の歴史にとっての源流としての価値をもっているだけではない。筆者の知る限り、おそらく、同書が日本の最も古い大学(当時は高等教育機関というべきか)沿革史である。現在からみると記述の典拠に「?」な部分が皆無とはいえないものの、最古の大学沿革史を持てたことを明治大学関係者は誇ってよいだろう。
 創立者の岸本辰雄は、同書を読んで次のようなことを述べている。
 
 「『明治法律学校二十年史』を読むと、(明治法律学校や我々が)将来に向けて担っている役割の大きさをただひたすらに感じるばかりである」(現代風に読みやすくした)。
 
 沿革史を含む歴史書の大きな役割とは、過去との対話をとおして、現在を生きる私たちが将来への指針を得ることである。岸本が同書を読んで得た、自らの将来の役割への身震いするような感慨は、まさに沿革史編纂第一の目的に適ったものといえる。 
 同書のまえがきで著者の田能邨はこう記す。
 
 「明治法律学校は長い将来、いや永遠の将来がある。ゆえに50年史または100年史(の編纂)は、これを後年の賢人に託すこととする」(こちらも現代風に読みやすくした)。
 
 明治大学の沿革史編纂は、田能邨の予測どおり実現したわけである。
 2021年、明治大学は創立140周年を迎えた。それを記念して、村上一博大学史資料センター所長のもと、新たな沿革史『明治大学140年小史』を刊行した(明治大学史資料センター編 非売品)。先立つ2010年に、コンパクトで幅広い層が読みやすい沿革史『明治大学小史』(学文社)を刊行し、これを増補改訂したものである。
 田能邨の予見にもない時期・規模で明治大学沿革史の刊行は続いている。明治大学「永遠の将来」に向けた貴重な検証材料として、沿革史の編纂は大切な役割を持ち続けていくはずである。

 【参考文献】
  中島三知子「『世界最古の刑法』小考:田能村梅士の中国法制史論」『法學研究:法律・政治・社会』(慶應義塾大学法学研究会)第82巻1号、2009年所収
  (慶應義塾学術リポジトリから閲覧可能→こちら