Go Forward

第16週「女やもめに花が咲く?」振り返りコメント

新潟県新潟市内で運行する「虎に翼」ラッピングバス(運行会社新潟交通)、写真提供:新潟県観光協会 新潟県新潟市内で運行する「虎に翼」ラッピングバス(運行会社新潟交通)、写真提供:新潟県観光協会

 
2024.7
第16週「女やもめに花が咲く?」を振り返って
 
明治大学法学部教授、大学史資料センター所長/図書館長
村上 一博

 第16週から新潟編に入りました。三淵嘉子さんが、新潟家庭裁判所の所長(わが国初の女性裁判所長)として着任したのは、再婚後の昭和47年のことであり、しかも単身赴任でしたから、ドラマの新潟編はまったくのフィクションです。ドラマでは、寅子が新潟地方・家庭裁判所三条支部に着任するシーンから始まりました。ロケは新潟県西蒲原郡弥彦村の彌彦神社で行われました。桂場・多岐川・久藤が開いてくれた壮行会で、「始めが肝心だ」、気を抜くなと喝を入れられ、初めての女性支部長ということで「風当たりが強いことは百も承知」と覚悟していた寅子でしたが、予想に反して、深田庶務課長以下職員や助役・消防署長、それに地元弁護士の杉田兄弟(兄の太郎役は高橋克実さん・弟の次郎役は田口浩正さん)から、満面の笑顔と盛大な拍手で迎えられました(高橋克実さんは三条の出身なので、コテコテの三条弁を話されているようです)。もっとも、その笑顔の裏には、寅子を値踏みするような、したたかさが隠されていたのですが・・・。職員たちにとってみれば、どうせ1・2年の短期間で移っていく支部長なのだから、上手く付き合い、「波風を立てず、立つ鳥跡を濁さず」に去って行ってほしいという思いが強い。また杉田兄弟にしてみれば、彼らは買い物や夕食の算段など、何かにつけて寅子親子の世話を焼いてくれるのですが、「馴れ合い」「持ちつ持たれつ」の関係に寅子を取り込もうとする意図が透けて見えます。相手の反応が思わしくないときに、太郎が見せる「舌打ち」(梛川さんの演出でしょう)も狡猾さを感じさせます。太郎と次郎が法廷で、事件ごとに原告と被告の代理人を入れ替わる・・・あの息の合った絶妙な遣り取りは、面白かったですね。ちなみに、三条支部の法廷は、長野県松本市歴史の里の「日本司法博物館」(旧長野地方裁判所松本支部・松本区裁判所)の法廷などを参考にして、NHKスタジオ内に作られたセットです。

 山林境界の現地調停のさいに、書記官の高瀬雄三郎は、地元イチの名士である大地主の森口から、早逝した兄のことをしつこく話され、兄の死をまだ乗り越えられない高瀬はカッとして暴行に及んでしまいました(そのあおりを食って寅子は意味なく川に落ちて・・・寅子が山登りをすると花岡が崖から落ちるなど、いつも事件が起こります)。高瀬を暴行罪で訴えるという森口を、太郎がとりなして穏便に解決してくれると言うのですが、寅子はこれを拒絶しました。太郎は「ここらのもんがむやみにいがみ合わんよう、みんなが平和に穏やかに生きていけっよう守ってるんです・・・こん土地流のやり方」でと恩着せがましく説明していますが、寅子は、この件は、裁判所への信頼を守るため、「しかるべく処置する」(台本では、本庁に報告して「注意処分」にするはずだったのですが・・・)と突っぱねました。事件を穏便に済ませれば、高瀬は、太郎や森口に対して借りを作ってしまうことになり、高瀬を傷つけて、その「心にできたカサブタを事ある毎に悪気なく剥がしていくような」彼らに対して、今後「ずっとへいこらして」暮らしていかなければならなくなる。そうならないように、この件で高瀬が縛られないように・・・「怒りたい時に怒ることができるように」と思って処分するのだと言うのです。寅子は、高瀬の気持ちに寄り添い、彼の心をしっかり掴むことができたのでした。

 一方、優未の「スン!?」はなかなか解けません。テストの点数44点をまた改ざんしようとしていた(4は改ざんの仕様がないですね)のを見咎めたところ、優未も優三と同じように緊張するとお腹が痛くなるという話をきっかけに雪解けになるかと思いきや、寅子は、優三のことをもっと優未に話してやらねばと思うものの、胸が詰まって話せません(この気持ちは私にも分かります)。花江から、寅子にしかできないことを優未にしてやれば良いと言われているのに・・・。寅子が花江からの手紙を読むとき、幻の花江が出てきて、寅子にあれこれ諭すシーンには笑ってしまいました。吉田さんのアイデアも、梛川さんの演出も、森田望智さんの演技も、みな良かったですね。

 さて、寅子が新潟地方裁判所本庁を訪れた際に、航一が馴染みしている、上手いコーヒーとハヤシライスを出す店、「喫茶ライトハウス」で眼にしたのは、なんと、変わり果てた(といっても普通の庶民の姿ですが)涼子様。涼子はなぜここに? 華族身分はどうなったのでしょう? 玉ちゃんは? 第17週でその真相が明らかになります。
お問い合わせ先

博物館事務室(明治大学史資料センター担当)

〒101-8301 東京都千代田区神田駿河台1-1 アカデミーコモン地階
eメール:history★mics.meiji.ac.jp(★を@に置き換えてご利用ください)
TEL:03-3296-4448 FAX:03-3296-4365
※土曜日の午後、日曜日・祝祭日・大学の定める休日は事務室が閉室となります。

当センターでは、明治大学史に関する資料を広く収集しております。
明治大学史関係資料や各種情報等がございましたら、どのようなことでも結構ですので、上記までご一報くだされば幸いです。