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第2週「女三人寄ればかしましい?」振り返りコメント

横田秀雄 横田秀雄(学長・総長)、明治大学史資料センター所蔵資料

 
2024.4
第2週「女三人寄ればかしましい?」振り返りコメント
 
明治大学法学部教授、大学史資料センター所長/図書館長
村上 一博
 
 「虎に翼」の第2週は、明律大学女子部に寅子が入学するところから始まりましたね(入学式のシーンで使われた校旗が、現在博物館で展示されている校旗です)。ドラマでは、貧弱な学長が入学式で挨拶していましたが、実際の明治大学の学長は横田秀雄という元大審院長(「大正の大岡越前」と呼ばれた学識豊かな名裁判官で、並の裁判官ではありません)であり、女子部開設の理由と歴史的意義を述べた名演説を行っています。明律大学校舎も登場しましたね。つくばみらい市にあるNHKの施設「ワープステーション江戸」のセットで撮影が行われました。大学史資料センターが提供した当時の校舎の写真をもとに、CGで、建物を3階建てに嵩上げしたうえで天井に丸いドーム(明大の象徴)を付けてもらいました。いくら目を凝らして見ても、セットとCGの境目は分からないと思いますよ。
 
 ドラマでは、女子部の第1期生は80名が入学し1年後に7名にまで減少、寅子は第2期生で入学生数は60名という設定になっていますが、実際は、昭和4年入学の法科第1期生は93名で3年後に54名にまで減少、寅子は昭和7年入学の法科第4期生で入学者は52名でした。退学した者が多かったのは、講義が難しかったことも一因なのですが、主な原因は結婚だったと考えられます。
 寅子の同級生に、男爵家令嬢の涼子さんや、よねさんのような男装の女性がいたというのは、脚本家の吉田さんの創作ですが、日本統治下の朝鮮から来た「留学生」がいたことは、確かです(私が調べたのですから確かです)。
 
 さて、裁判所のシーン。ロケは、旧名古屋控訴院・地方裁判所・区裁判所の合同庁舎(現在、名古屋市市政資料館として公開されています)で行われました。もっとも、法廷は、渋谷のNHKスタジオ内に作られたセットです。寅子が傍聴の受付をしたのは、ドラマでは、裁判所の地下ですが、これは史実ではありません。当時は、裁判所の外の別棟に、弁護士及び傍聴人の控所が設けられていて、法廷に誘導されたのです。ドラマでは、ロケ地に別棟の控所を造ることができなかったため、地下に受付と控所を設けたわけです(ちなみに名古屋の裁判所の地下には、刑事被告人を収容する部屋が残っています)。
 「シソンヌ」のお二人(私はお笑いコンビだとは知らず、どこかの劇団から派遣されたエキストラの方だと思って挨拶していました)が弁護士役で登場する「物品請求事件」は、面白かったですか ? 私は裁判シーンにずっと立ち会っていたのですが、リハーサルと本番を併せたら、NGを含め、5回以上は同じ弁護シーンをやり直していましたから、お二人とも随分疲れたと思いますよ。
 当時の民法では、妻の特有財産(嫁入りの際に持参した物品)は、婚姻中は夫の管理下に置かれるという規定がありましたから、規定通りに解釈すると、離婚が成立するまでは、たとえ別居していても、妻は夫に対してこれらの物品の引渡しを求めることはできないことになります。裁判官は、悩んだ末に、そもそも夫に妻の財産の管理権があるのは、妻の財産を保護するためであって、婚姻関係が事実上破綻していて、妻が持参財産の引渡しを求めた場合に、夫が管理権を主張してこれを拒むのは、「権利の濫用」に当たると判決しました(ちなみに、「権利の濫用」を認めた判決として有名なのは、昭和10年10月の宇奈月温泉事件判決ですが、それ以前にも、「権利の濫用」を認めた判決はいくつかあり、この物品請求事件は昭和6年の実際の判決を参考にしています)。
 判決は、裁判官による自由心証による事実と法の解釈・運用によって、まったく異なる結論が導かれますから、「法廷に正解はない」のです。
 ちょっと、難しい話になってしまいました。
 
 最後に、女子部の階段踊り場のステンドグラスについて。このステンドグラスは、映像ではほとんど映っていなかったと思いますが、翼をモチーフに、法曹界に羽ばたく女性たちをイメージして、美術スタッフが制作した自信作です。明治大学での展示にぜひ使ってほしいということで、展示することになりました。故意に汚れを付けたりして、随分凝った作品になっています。
 第3週も女子部時代が続きます。よねさんの過去が明らかになりますよ。お楽しみに。

<第1週の振り返りコメント補足>
 ドラマに登場するお茶の水橋のシーンについて、第1週振り返りコメントで、全部CGと書きましたが・・・。八王子市多摩ニュータウンの長池公園にある「長池見附橋」でロケして、背景などをCG加工したものでした。長池見附橋は、JR中央線の四ツ谷駅をまたぐ旧『四谷見附橋』を移築したものです。
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