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第3週「女は三界に家なし?」振り返りコメント

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2024.4
第3週「女は三界に家なし?」振り返りコメント
 
明治大学法学部教授、大学史資料センター所長/図書館長
村上 一博
 
 第3週は、プールで泳いでいた寅子が、濡れた髪のままで、慌てて教室に駆け込むシーンからスタートしましたね。三淵さんが、御茶ノ水のYWCAでときどき泳いでいたことは、級友たちが証言しています。ちなみに、YWCAの屋内プールは、今もありますよ。
 ドラマでは、退学者が続出して明律大学女子部が閉校されそうになり、新入生確保のため、法廷劇をすることになりました。前にも少しお話ししたように、昭和4年に明治大学女子部がスタートしたときは、法科の入学生は93名でしたが、三淵さんが入学した昭和7年は52名と次第に少なくなっていきました。退学者も多く、卒業するころには約半数に減ってしまうという状態でしたから、閉校されそうになったのも頷けます。翌昭和8年に弁護士法が改正されると(施行は3年後の昭和11年)、入学者数は少し持ち直しましたが、三淵さんが法学部に入学した昭和10年は21名、高等試験司法科に合格した昭和13年には16名にまで落ち込んでいます。この年、三淵さんを含めて3人が合格しなかったら、おそらく女子部は潰れていたことでしょう。
 
 さて、法廷劇は、題して「毒饅頭殺人事件」(無声映画風にモノクロでイメージされた劇中劇では、甲子をはる、乙蔵を優三が演じていましたね。台本を読んだとき、なんとも突拍子もないドラマ展開で思わず吹き出しました・・・撮影現場もノリノリで大爆笑の連続だったようです)。事件の内容は、女給の甲子が7歳年下で医学生の乙蔵と同棲し(結婚の約束あり)貢いだあげく捨てられたのを恨みに思い、乙蔵一家の殺害を決意、防虫剤入りの饅頭を届けたところ、それを食べた乙蔵と両親は死ななかったが、たまたま饅頭を食べた祖父が死亡したため、甲子は殺人および殺人未遂の罪で懲役8年の有罪判決を受けるという筋書きでした。法廷劇そのものは、男子学生たちによる妨害によって中止になってしまいましたが(校友の方から、明治大学のイメージが悪くなるとお叱りを受けましたが、もうすぐ岩田剛典さんが登場して一挙にイメージアップしますので・・・お許し願います)、私としては、ちょっと真面目に、甲子に殺人の故意があったのかとか、毒饅頭に致死量の防虫剤を入れることが物理的に不可能であったとすれば、不能犯として無罪になるのではないかとか、致死量の防虫剤が入っていなかったとすれば、その饅頭を食べたことと祖父が死亡したことの間に因果関係があるのかなど、いろいろな刑法解釈上の問題について、寅子たちに議論させたかったのですが・・・、議論は中途半端に打ち切られて、明律大学の学長が、女性の愚かさ・哀れさを強調するために人物設定を代えていたことが発覚するなど、ドラマは全然別の方向に進んでいってしまいました。
 
 第3週の法律問題として、もう一つ。よねのお姉さんが女郎(娼妓)として働いた給金を置屋(貸座敷)にピンハネされていたことについて、売春行為は公序良俗に反する行為であり、それに「関連する契約はすべて無効と見なされるから、金銭請求などしても敗訴する場合が多い」(よねのセリフ)という下りがありましたね。確かに、現在の解釈ではそのように考えてよいのですが・・・。戦前期に、女性が娼妓になる場合、多くは親が貸座敷から借金をして、その借金を返済するために娘を娼妓として働かせるというのが通例でした。娘を借金弁済のために無理やり働かす(人身を拘束する)「娼妓稼業契約」は公序良俗違反として無効だと判決した例はあったのですが、前借金および娼妓として(彼女の自由意思で)働く契約そのものについては無効とした判決はほとんどありませんでした。したがって、貸座敷に対して娼妓稼業によって稼いだ娘の給金を契約通り要求することは認められていたと考えています。この点、よねさんの発言と私の見解は異なります。ドラマで扱われている法律問題は、必ずしも私の見解に沿って構成されているわけではないのです。
 「婚姻予約有効判決」についても、お話ししたいところですが・・・今回はこのあたりで。法律の話ばかりでスミマセン。
 第4週、寅子は女子部を卒業して法学部に進学します。岩田剛典さんの登場です。お楽しみに。
 
<第2週の振り返りコメント補足>
 第2週の物品引渡事件の最初の裁判シーン終わりで、裁判長が「次回公判にて結審します。来週の水曜日、同じ時間で」と述べているのですが、「公判」は刑事裁判について使われる言葉であって、民事裁判では「口頭弁論」と言うべきでした。私のチェックミスです。こんなヘマもやっています(懺悔!)。
 もう一つ補足です。上の裁判について、どんな判決が出るか予想するため、寅子とよねが図書館で争って、判例集の貸出票を司書に提出するシーンがあったのを覚えていますか ? あの貸出票、明大図書館員の皆さんに戦前期の貸出票を頑張って探してもらって(見つかったのです!)、復元したものなのですが・・・それなのに、映ったのはほんの一瞬、しかも良く見えませんでした(申し訳ありません!)。
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