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第4週「屈み女に反り男?」振り返りコメント

法学部授業風景(五十二講堂にて) 法学部授業風景(五十二講堂にて)、明治大学法学部卒業記念 アルバム(昭和16年12月)、明治大学史資料センター所蔵資料

 
2024.4
第4週「屈み女に反り男?」を振り返って
 
明治大学法学部教授、大学史資料センター所長/図書館長
村上 一博
 
 第4週、寅子達5人は女子部を卒業して、昭和10年4月、いよいよ法学部に入学しました(女子部入学時は60名、卒業時には5名にまで減少したものの、全員が法学部に進学したという設定です)。当時、女子部も法学部も在学期間は3年でした。高等試験司法科を女性が受験できるようになるのが昭和11年度の試験からですから、寅子たちの学年は2年生から受験できることになります。ドラマと同じように、実際の法学部の講義でも、女子学生たちは一団となって講義を受けていました。もっとも、戦時体制下ですから、男子学生との交流はほとんどなかったようで、ドラマの合同ハイキングはもちろん創作です。

 梅子の夫である大庭弁護士が、民事訴訟法の講義のなかで、結婚前の女性が飼い犬に噛まれて顔に重傷を負った事案で多額の賠償金(慰謝料)が認められたことに言及したとき(実際にあった判決です)、またまた寅子の脳内劇場の幕が開きました。なんと、犬に扮するははる、被害者女性は直言、台本で配役を知っていた私も「完パケ」(完成映像のこと)を見て思わず吹き出してしまいました・・・が、女性は「町一番の美人と有名だった」と大庭弁護士が言った瞬間、寅子のイメージも変更されて、女性は直言から花江に替わりました。皆さん、気付きました? 被害者の母親役の優三もすさまじい形相で何か喚いていましたね(セリフはアドリブだったようで、ちょっと放送にそぐわないので、残念ながら、編集でカットされてしまいました)。梛川善郎さん(演出担当)による絶妙の演出が、またまた炸裂です。

 なお、ここでも「語り」の巧みさ・素晴らしさに、驚かされます。「語り」は、ドラマの背景や補足説明に使われるのが普通ですが、皆さんもお気付きのように、「虎に翼」では、寅子の心の内(同情・戸惑い・突込みなど)を表現したり、語り手も共演者の一人であるかのようにドラマに参加したり、視聴者の声ともとれる誰のか分からない声などが、変幻自在に降り注ぎます。尾野真千子さんの感情のこもった巧みな言い回しも相まって、視聴者は思わずドラマに引き込まれ、「語り」と共振するのですね。脚本家(吉田恵里香さん)の力量、恐るべしです。

 明律大生が帝大生に引け目を感じて「スンッ!」とするシーン、不愉快に思われた校友の方がおられたかもしれませんが、帝大生が憧れの存在であったことは事実でしょう。しかし、岸本辰雄が行った講演「明治大学の主義」(明治36年)からは、国家の上級官吏の養成を目的とする帝国大学は、ともすれば国家権力に迎合し学問の自由を自から放棄する恐れがあるのに対して、私学(明治大学)こそが—設備は乏しくとも—、学問の目的である真理を追求できる場なのだという「独立・自治」の精神、私学としての自負を読み取ることができます。明治大学は、創立以来、帝大に劣らぬ、数多くの弁護士・判検事そして政治家を生み出したのです。

 梅子が法律を学ぶのは離婚して子供の親権を得るためだと、胸中を吐露するシーンは泣けましたね。この撮影の翌日だったと思いますが、玉ちゃんとスタジオで会ったとき、昨日の撮影は一日中泣きっぱなしで大変だったと言っていました。確かに、玉ちゃん、泣きじゃくっていましたね。

 親権について少し解説しておきましょう。明治民法第877条は、「子ハ其家ニ在ル父ノ親権ニ服ス・・・父カ死亡シタルトキ・・・ハ家ニ在ル母之ヲ行フ」と定めており、子の親権は第一に父親、父親が死亡するなど親権を行えない場合には、例外的に母親に親権を認めるという内容になっています。母親にまったく親権を認めないというのではありませんが、「家ニ在ル」母親に限られますから、夫と離婚して夫家の戸籍から離れれば、母親であっても親権は認められません。明治民法以前には、母子の自然の情愛から離婚後の母親の親権も認められるべきだという見解もあったのですが、穂積八束(重遠の叔父)の主張を容れて、明治民法のような規定になってしまったのです。

 第4週が始まり、SNSでは、直言さんの様子が何となくおかしい、不穏な事態を予感させると言った書き込みがありましたが、鋭いですね。その予感は見事的中です。直言は、政財官界を巻き込んだ大事件「共亜事件」に連座し、逮捕→勾留→起訴されて予審に付されました。直言は「贈賄」罪で有罪となるのでしょうか? 寅子は手をこまねいてただ事の成り行きを見ているだけなのでしょうか? 緊迫する法廷! 第5週を、お楽しみに(この法廷シーンの撮影は大変でした)。

<第2週の振り返りコメント補足>
 第2週の物品引渡事件で、裁判長が「公判」という言葉を使ってしまったことについて先回懺悔したのですが、実はもう一件間違いがありまして・・・。同事件について「語り」が説明する下りで「訴状」が映ったのですが、訴状に被告側弁護士の名前が記載されていたのです。原告側弁護士の名前は当然に記載されますが、被告側弁護士はまだ選任されていませんから、訴状に書かれているはずはないのです。その他にも訴状にはミス記載がありました。訴状や判決文の見本は、助監督さんや小道具さんに事前に渡していたのですが・・・出来上がってきたものをチェックしていませんでした(再び懺悔!)。
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