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震災等復興活動

岩手県大船渡市との震災復興に関する協定に基づく連携事業「椿による地域活性化推進事業」

2018年02月27日
明治大学 震災復興支援センター

椿の実採集に関するチラシ(平山ゼミ作成)椿の実採集に関するチラシ(平山ゼミ作成)

「産業まつり」での椿油を使ったハンドマッサージ「産業まつり」での椿油を使ったハンドマッサージ

大船渡市内の小中学校で「椿学習」大船渡市内の小中学校で「椿学習」

 この1年間、文学部心理社会学科現代社会学専攻の平山満紀ゼミ3年生17人は、岩手県大船渡市の「椿事業」に携わって夢中だった。このゼミは2011年から「東日本大震災の被災と復興」をテーマとし、壮絶な破壊がもたらしたものと震災後の変化していく状況をとらえ、何が復興を後押しするのかを考え、学生のできる活動を真摯に行ってきた。被災地では高校卒業後、地元を離れる若者が多く、大学生の新鮮な発想や溌溂とした活動は歓迎されてきた。こうした活動の継続が平山ゼミへの信頼につながり、今年度は大船渡市の「椿事業」への協力がこのゼミに依頼された。明治大学と大船渡市の連携に基づいた依頼である。

 被災地は今、復興から地域振興へと段階が移行したとしばしば言われる(原発の影響の少ない地域の場合)。大船渡も破壊の痕は一見なかなか見えにくくなった。一方人口減少、産業の衰退は進みつつあり、いかに地域の活気を取り戻せるかが大きな課題となっている。大船渡を含む気仙地方では古来、ヤブツバキが多く自生し、さらに人々が椿を防火や防風のために植えたり、家庭で実を採集し椿油を絞るなど、椿を生活に幅広く活かしてきた。この貴重な資源に再び光を当て、椿に関わる文化を人々の誇れる地域文化として育て、観光化や商品化をして椿産業を盛んにしようとするのが、大船渡市の「椿事業」である。
 椿油は植物油の中で最高の品質を誇り、商品化の可能性も幅広いが、その生産量を増やすには、市内各所の椿から良質の実を採集する活動を市民に普及させることが欠かせない。平山ゼミが携わったのがこの普及活動だった。市職員の方々はじめ大船渡の方々の多大な協力を得、椿の多くの関係者の取材をして椿について一から学び、良い実と悪い実の見分け方、適切な採集方法、採集後の処理方法などを研究し、2017年秋までに、見やすく目を引くデザインのチラシに仕上げた。同年秋にはまた、大船渡市の「産業まつり」の椿コーナーをゼミで担当し、椿油を使ったハンドマッサージ、椿油の搾油体験などで椿文化を伝え、来場者にできたばかりのチラシを配布しながら実集めを促した。また、市内の小中学校の「椿学習」にも協力し、将来の大船渡を担う子どもたちに椿の価値を伝え、実集め活動を身に着けてもらうためにゲーム形式の実集めを企画を実行した。これはたいへん盛り上がり、子どもたちには印象に残ったことだろう。
 加えて、椿の歴史、文化、商品、観光名所などあらゆる面を一冊で伝える『椿のパーフェクトブック』の製作にも注力した。これは2018年3月刊行予定で、大船渡市民全員に配布される。これまで個々で活動していた椿の関係者をつなぐ役割も果たし、市民の地域資源に対する意識形成の土台になるだろうと思う。

 学生達は市職員にお世話になり、助けていただきながら、責任の大きな仕事を担わせていただいた。起業家、宮司、農業委員はじめ多様な立場の方々に取材し、授業への協力やガイドブックの執筆、編集をし、地域の事業をどのように起こすかを体験的に学んだ。生死に関わる話も思いがけない時にうかがえるのだった。椿という自然素材が内在させる驚くべき可能性に触れ、自然の奥深さをも知った。本当にやりがいのある活動で、貴重な勉強だった。
 椿は根を深く張り、津波でも流れにくかったという。また311の頃に赤い花を咲かせ、復興の象徴のようにも見られている。このような意味深い椿の事業に、全力で携わったことは、珠玉の経験であり、学生達には生涯の宝となるだろう。
(文学部 准教授 平山満紀)