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法学部

太田勝造教授の共同研究成果がオックスフォード大学発行の脳神経科学の専門雑誌に掲載されました!

2022年01月20日
明治大学 法学部

 本年1月18日付けで,太田勝造教授の共同研究成果が,オックスフォード大学発行の脳神経科学の専門雑誌であるCerebral Cortex誌に掲載されました。
 この研究は、東京大学法学部の加藤淳子教授(政治学,ニューロ・ポリティクス),浅水屋剛助教(fMRI画像解析,物理学)らと,東大法学部内の「先端融合分野研究支援センター」において共同で研究している,科学研究費助成事業の「法的判断の構造とモデル化の探求:AIはリーガル・マインドを持てるか?」(研究代表者・太田勝造)の成果論文の一つです。太田教授は東京大学から明治大学に移るまで先端融合分野研究支援センター長でした.

【研究概要】
 法専門家である弁護士,裁判官,検察官に共通してその専門性を象徴するものが「リーガル・マインド」とされる。リーガル・マインドの中核には,個別具体的な事案についての妥当公正な判断をすることがあり,それを担保するものが,規範的ルールの要件に事実関係を当てはめて法律効果の有無の判断を下す「要件・効果」の発想であるとされる。
 反面,このような思考様式は一般人の約束,契約,および社会規範に基づく判断にも広く見られる。さらには,ルール違反者(その典型は犯罪者)も,一般に「犯意」の存在が処罰に必要であり,したがってルールに自己の行為を当てはめて,違法であるか合法であるかの判断をしている(そして違反している)。
 本研究では,fMRI装置(機能的磁気共鳴画像装置)やアイ・トラッキング装置などの先進技術を活用した実験,サーヴェイ実験,更には脳内物質オキシトシンの分泌の有無と程度の調査など,文理を越えた多角的かつ学際的手法を駆使して,リーガル・マインドにアプローチしている。また,本研究は,近時発達が著しいAIによる裁判支援システムのモデル化の基盤をも提供している。

【成果の概要】
 法専門家(弁護士および司法試験合格直後の法科大学院生)と法の素人(法学以外を専攻する大学生)を参加者(被験者)として,fMRIに入って法的判断(量刑判断)と日常的判断とをしてもらい,その間の脳を撮像し続けて実験データを蒐集した。これにより,法の素人と法専門家の法的判断における脳の賦活部位の異同や賦活部位連結性の異同,法的判断と日常的判断における脳の賦活部位の異同を検証した。とりわけ,理性と感情の使い分けに注目してデータ解析をした。Cerebral Cortex誌掲載の論文は,この研究成果である。
 法専門家も法の素人も,法的判断の際に,脳の感情関連部位と理性関連部位の双方が賦活する点で大きな差はなかった。他方,脳の賦活部位の数とそれらの連結性は,法の素人の方が圧倒的に法専門家よりも複雑であった。これは,専門性とは脳の効率的使用と関連するという多くの知見と整合的である.反省悔悟のない被告人の量刑を増加させる判断の際に,法の素人には感情関連部位から理性関連部位へ向かう連結性だけが見られたのに対し,法専門家は逆の理性関連部位から感情関連部位へ向かう連結性も見られた.義憤に促されて法的推論をする法の素人に対し,法専門家は法的推論に基づいて感情を制禦しようと努力していることを示唆する結果であると解釈できるかもしれない.
 また,島根あさひ社会復帰促進センターの協力を得て,盲導犬を飼育する受刑者の脳内物質オキシトシンの分泌の有無と程度,アイトラッキング・テストなどによるデータ蒐集を実施し,国内外で発表できる成果を上げている。


掲載内容
太田勝造教授