2004年4月に、明治大学法科大学院の未修コース第1期生として入学し、2008年9月に新司法試験に合格後、第62期司法修習生として、山口県で実務修習。
【明治大学法科大学院ではどのような勉強をしてきたのか】
私は、商学部を卒業した後、民間企業に勤務し、退職後、明治大学法科大学院に入学しました。それまで全く法律の勉強をしたこともなく、法律にかかわる仕事をしたこともありませんでしたので、1年時の夏学期は、授業についていくことがとても大変でした。私は、法科大学院に入学する前は、未修コースというのは、法学部以外の出身者で、他分野で活動してきた者が集まるところと思っていたのですが、実際に入学してみると、未修コースでも過半数が法学部出身者や司法試験受験経験者であったため、入学当初から授業のレベルが想定以上に高かったのです。2年生になれば、既修者コースに入学してくる学生とともに勉強することになることからも、このままではいけないと奮起し、1年時は盆も正月も、自習室が開いている日は1日も休まずに大学院に通って勉強しました。今から思い返すと非効率な勉強も多かったと思いますが、この時に歯を食いしばった経験は、今でも自分の支えになっていますし、以後、法学部出身の学生たちと伍してやっていくための基盤にもなりました。
また、私自身の強みは、やはり法律以外の分野の経験があることしかないと考えていましたので、選択科目も真剣に勉強しました。新司法試験科目には無い科目ですから、直接新司法試験に役立つことはありませんが、自らの将来の仕事の幅を広げるための基礎作りとして、意識を高く持って取り組みました。
【修習での学習と法科大学院での学習との整合性について】
実務では、法適用の問題よりも、事実認定の問題が中心となることが大半です。修習においては、法科大学院での学習とは異なり、事実認定の技術を磨くことに、多くの時間を費やすことになります。しかし、それは、法科大学院において、実体法の理解を身につけていることが絶対条件となっています。実体法を理解していなければ、求める法律効果を発生させるための要件がわからず、認定しなければならない事実を抽出することができないからです。
法科大学院では、民法や刑法などといった基本的な実体法について、講義もありますし、演習もあります。これらの内容をしっかりと身につければ、修習にも十分に対応できる力をつけることができると思います。たしかに、実務修習で扱う法律は、民法や刑法といった基本的な実体法だけではありません。特別法なども多々あります。しかし、基本的な実体法の知識や法解釈の理解を深めておけば、特別法を扱う際の基礎になりますから、十分に対応できるようになります。そのような意味で、法科大学院での実体法の授業は、司法修習をする上での、必要不可欠な導入となっているといえるでしょう。
手続法についての知識も、実務修習においては不可欠の要素です。実務はすべて手続法に基づいて、時々刻々と進行していくものですから、手続法を理解していなければ、裁判手続の傍聴等しても、何をしているのかが分からなくなってしまうからです。法科大学院での民事訴訟法や刑事訴訟法といった手続法の講義も、実務修習をするにあたっての必要不可欠な知識を得る機会として、大変貴重なものであると思います。
【明治大学法科大学院ではどのような勉強をしたらよいと思っているか】
前述しましたとおり、司法修習においては、法科大学院における基本法律科目(特に実体法)の知識、理解が大前提とされていますから、それらを身につけるための学習に一つ一つ真剣に取り組んでいくことに尽きると思います。新司法試験は、実務家登用試験でありますが、司法修習を受ける能力があるかどうかを判定する試験でもあります。ですから、新司法試験の合格を考える上でも、司法修習で求められる実体法の基礎知識、理解を身につけることが合格に必要不可欠なことです。実体法を身につけるには、やはりしっかりとした基本書を読み、講義や演習に真剣に参加することと、判例などの多くの事例に触れることが肝要だと思います。事例に多く触れておくことは、新司法試験であれば択一試験などでも大きな力になるとともに、修習においても、生の事件の処理を検討する上で、解決方法の引き出しが増え、大きな武器になります。法律の勉強には、何か特効薬があるわけではなく、毎日の積み重ねが将来の大きな力となるものですから、日々の授業に真剣に取り組んでいくことが、何より大切だと思います。
【最後に】
法科大学院は、司法修習や実務家として必要とされる基本的な法律知識や法解釈能力を身につけるという、司法修習や実務に就くにあたっての貴重な導入の場であるともに、司法修習だけでは育成できない多様な法曹を養成するための場であるとも思います。たしかに、法曹であれば誰でも身につけていなければならない基本的な法律知識や法解釈能力を落としてはいけません。しかし、そのような画一的な学習のみにとどまるのではなく、総合大学という学際的な環境を十分に活用して、多様化した社会の中で活躍できる素地を身につける、最後のチャンスが法科大学院であるとも感じています。学生の皆さんには、法科大学院で勉強すべきことをあまり限定的に考えずに、将来の夢や知的好奇心に素直に従って、幅広く、エネルギッシュに、様々なことを勉強していただければと思っています。