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ネットワーク×数理でがんも資源問題も解決!?
明治大学 総合数理学部 ネットワークデザイン学科 佐々木 貴規
生命の基本単位である細胞は10—11ℓという、とても小さい体積を持っています。この細胞の中に遺伝情報を持ったDNAをはじめ、RNAやタンパク質といった特定の役割を持つ生体分子が何千、何万種類とひしめいています。これら膨大な種類の生体分子は、細胞という狭い世界で混雑しているにも関わらず、各細胞内小器官や細胞表面など、目的の箇所にきちんと到達し、的確に標的分子への結合や化学反応といった役割を果たします。その結果として細胞が運動したり、増殖したり、病気と闘ったりと、生物らしい振る舞いを見せるのです。このようなダイナミックで神秘的な生命活動を本当に理解するためには、数十億年という長い歴史をかけて生命が築きあげてきた生体分子同士のつながり、つまり“ネットワーク”を数理の力で解析し、目に見える形にしなければなりません。
細胞内で行われる転写制御、代謝、シグナル伝達といった化学反応のネットワークを数理モデル化することで、細胞内で起こっている様々な生命活動の現象や、がんに代表されるような疾患のメカニズムを目に見える形としてコンピュータ上で再現することが可能になります。さらに面白いのは、浮き彫りにされたネットワークを基に、望みのネットワークをデザインし直して、実際に我々の手でその新しいネットワークを細胞内に再現できる可能性があることです。これによって様々な病気に対する副作用の少ない薬剤開発や、バイオ燃料、産業廃棄物処理などの循環型産業への応用が期待される微生物や植物の研究開発を、より戦略的に進めることが望めるのです。数理科学はそのようなコンピュータ上での理論構築と実験の架け橋となる。つまり、仮想的な空間でのシミュレーションを飛び出して、現実を変えていくことができるのです。これがネットワークデザイン学科で学ぶ醍醐味の一つであると言えるでしょう。