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数理のチカラ vol.6

統計学、それは見えないものを見通す力

明治大学 総合数理学部 現象数理学科 中村 和幸



携帯電話で文字を打つときに現れる予測変換、明日雨が降る確率を予測してくれる天気予報。私たちの生活をより便利なものにしている「予測」の裏には、実は統計学が使われています。統計学の目線で見れば、目には見えない未来の答えも見えてくる。その力は、経済から医療、防災まで、さまざまな分野で活躍しています。



たとえば携帯電話の予測変換は、一般的な使用頻度やその人個人の使用履歴といったデータから、その人に最もフィットした言葉を予測して表示するように作られています。この「予測」を実現している立役者の一つが、統計学。近年は特に「ベイズ統計」という手法が注目されています。統計学を使ってさまざまなデータを分析・数値化すれば、これまでに何が起きたのかはもちろん、隠れている情報は何か、これから何が起きるのかといったことまで見通すことが可能になります。



まだ起こっていない未来の出来事、目で見ることができない深海の地形、直接触ることができない生物の細胞膜の固さ──。計測データや実験データはたくさんあるのに確かな答えが見えてこない、そんなとき統計学ほど力を発揮する学問はほかにありません。バラバラに存在しているデータを見つめ直して、より「確からしい」答えを導き出し、それがどのぐらい確かなのかという数値も一緒に提示する。統計学が持つこの力は、経済や物理、生物、医療、防災までさまざまな分野の研究に役立てられています。



ほかにも、為替市場が変動したときに隠れた原因を見つけ出したり、沖合で津波が起こったときに何分後にどこまで浸水するのかを瞬時に計算したりと、統計学はさまざまなことを実現する可能性を秘めています。データの最新の見方、そこから答えを導き出す最新の手法、それらを身につけた人の前には無数の選択肢が広がるでしょう。統計学は幅広い分野に応用できるため、データをもとに新しいビジネス提案をしたり、異分野の専門家との共同研究に参加したりするなど、社会で広く役立てるチャンスがたくさんあります。自分の力を何の分野に生かしていくか、決めるのは自分自身。いろいろなものに興味を持ち、知りたいと思ったことがあればその答えをどんどん追求してください。
データにいろいろな見方を与える統計学、そしてこれを内包する現象数理学は、非常に懐の広い学問です。自分次第でいくらでも広げることのできるこの世界を探索し、見えないものを見通す手法をともに学んでいきましょう。
(了)

数理のチカラ : 現象数理学科

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