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数理のチカラ − 池田 幸太

ヒョウ柄やシマウマの模様を方程式からつくりだせる?

明治大学 総合数理学部 現象数理学科 池田 幸太



 ヒョウやシマウマなどの体の模様はどのようにできるのでしょう。動物の模様の発生メカニズムは、反応拡散方程式というシンプルな数式で説明できるのではないか。そんな研究が進められています。

 反応拡散方程式は、1952年にイギリスの数学者・チューリングが論文で発表したものです。特定の場所における化学反応と、何かが広がっていく拡散現象を組み合わせただけのシンプルなものですが、この方程式によって、空間的なパターンが二つの物質の反応と拡散によって自律的に生じることが証明されました。ヒョウやシマウマなどの模様も、司令塔のような細胞がどこかで制御しているわけではなく、一つひとつの細胞同士の相互作用によってできあがっていくことが示唆されたのです。実際、この数式をもとにパソコンでシミュレーションすることで、動物の模様にそっくりな様々なパターンを再現することができます。



 チューリングの考えはあくまで理論的なものでしたが、近年、反応拡散方程式によって生物の模様や形態の発生を説明する生物学的な研究も増えてきました。私は数学者として、これらの研究が本当に正しいのかどうか、数学的に厳密に証明することを一つの研究テーマにしています。

 自然界は複雑で多様性に満ちています。まったく異なるようにみえる現象のなかに普遍的な法則を見つけ、数学的に説明する。多様な現象を数式によってモデル化することで、より深く理解し、その本質を解明していく。それが現象数理学です。



 例えば、肺になる細胞が枝分かれしていく現象と、頭蓋骨の真ん中の縫合線が湾曲していく現象は、同じ方程式によって表現することができます。またある現象から見いだした原理や数理モデルを、まったく別のものに応用することもできます。例えば反応拡散方程式は、緑地が砂漠化していく過程にも当てはめることができます。砂漠化の過程では、大地に動物の模様のような波状の模様が現れるからです。緑地が時間の経過とともにどのように変化していくか、反応拡散方程式を使って予測できるかもしれません。



 数学者にとっての最大の喜びは、複雑な現象をシンプルな数式で説明できたときの感動です。その喜びは何ものにも代えられません。同時に、現象数理学のように、数学を社会が抱える問題の解決のために活用することも意義あることです。工学的な実験で現れる現象を数式で表現するなど、他分野の研究をサポートすることも大事な仕事です。

 現象数理学科では、数学が純粋に好きという人はもちろん、数学を使って世の中の役に立ちたいと考える人を大いに歓迎します。
(了)

数理のチカラ : 現象数理学科

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